第16話 国王の下す処遇
王女カルミアの部屋で再会したユウとローゼルはあまりに突然の事で驚きお互いに硬直してしまっていた。
「ユ、ユウさん、なんでここに・・・それにお母様もなんでそんな元気に・・・もしかして幻覚・・・」
混乱してふらふらとしているローゼルを椅子に座らせ落ち着くのを待って事情を説明した。
「そんなことがあったんですね・・・」
「ローゼルはあの後どうだったの?」
「私はお父様に怒られただけですよ」
「そんなことよりユウさん、お母様の病気を治してくださりありがとうございます。それと、身分を隠し名前を偽ってしまって・・・本当にごめんなさい」
ローゼルは深く頭を下げた。
「・・・なんとなく嘘をついてたのは知ってたよ、身だしなみやご飯の食べ方がどこかのお嬢様みたいだったし。それにその程度の嘘気にしてないから顔を上げて」
頭を下げているローゼルにやさしく声をかけて頭を上げてもらった。
「そろそろ本題を話してもいいかしら」
カルミアは二人を見ながらそう言った。それはユウのローゼル誘拐の誤解を解くために国王に会いに行くための話し合いだ。国王は今はこの建物の三階、王の間と言う所にいるらしい。そこへ三人で向かっていった。
「ここが王の間よ」
カルミアに案内されてやってきたのは王の間の扉の前だった。その扉はルイナの屋敷の扉に似て大きく装飾もされていた。
「そこを通してもらえる」
カルミアは扉の前に立つ二人の騎士に話しかけた。
「カルミア様!お身体は大丈夫なのですか」
「えぇ、もう元気よ。そのことを主人に伝えに来たんだけど後ろの二人も一緒に通してもらえるかしら」
「かしこまりました。どうぞ」
ふたりの騎士は大きな扉を押し開けた。ユウとローゼルはカルミアの後ろを歩きながら中へ入っていく。
ユウの視界の先には二つの王座があり左側の王座に国王ロズベルド・ハイビスが堂々と座っていた。右側にある空席の王座はカルミアのものだろう。
「カルミア!どうしてここに。あの、赤魔の衰病を克服したのか」
王の間に入ってきたカルミアを見て国王ロズベルドは驚き立ち上がった。
「違うわ、治療してもらったの」
「なんだと、王都の優秀な医者ですら治療できなかったんだぞ!いったい誰が・・・」
「この子よ、冒険者のユウちゃん」
カルミアは後ろに居たユウの手を取りロズベルドの前へ引っ張った。
「カルミアさん!?あっ、えっと、はじめましてユウです」
「この娘が赤魔の衰病を・・・ローゼルと歳は変わらなさそうだが」
ロズベルドはユウに近づいた。
「ユウと言ったな、お前ローゼルを誘拐して地下牢に居れたはずだがなぜここにいる」
ロズベルドの一言で比較的穏やかだった空気がまるで大蛇に睨まれているかのような空気になった。
「うっ、それは・・・巡回していた騎士からアイテムスティールカギを奪って牢屋から抜け出しました・・・」
ユウは目をそらしながら答えた。
「そうか・・・本来いなら脱獄した者は十年間独房で暮らしてもらうことになるがカルミアを病から救いだしてくれたことに免じて不問としよう」
その言葉にユウは胸をなでおろした。
「だが、ローゼルの誘拐の処遇を取り消すわけではない」
「処遇・・・」
「聞いていないのか、ならば教えてやろう。お前は処刑されるのだ」
「ちょっと待って、ユウちゃんは誘拐なんてしてないわ」
「私は誘拐なんてされてません。むしろユウさんにはよくしていただきました」
ユウをかばうようにカルミアとローゼルが反論する。
「だが、ローゼルを誘拐しているところを見たという騎士がいてな、残念だが――」
ロズベルドが言い終わる前に王の間の大きな扉が開き一人の騎士が何かを引きずりながら入ってきた。
「何事だ」
「ロズベルド様、それがこの者たちが王宮の前に縛られていたんです」
運ばれてきた来たのは気を失っている二人の盗賊だった。その盗賊をユウは知っていた。
(この盗賊たち王都でローゼルを攫おうとしてた人たちだ。あの時近くに居た騎士に突き出しておいたのに)
「ただの盗賊だろ、地下牢に放り込んでおけ」
「ですがこの盗賊共を捕らえたであろう冒険者の方からの言伝で『詳しいことはユウに聞け』とのことで」
視線がユウに集まる。
「その盗賊は王都でローゼルを攫おうとしていました。その盗賊から逃げていたローゼルを助けたのが私です。嘘はついていませんあの場には大勢の人がいました、そして何よりローゼルが一番の証人です」
「・・・本当なのかローゼル」
「すべて本当です」
「そうか、その盗賊共を独房へ送れ」
騎士は気絶している盗賊を運び出した。
少し間を開けてロズベルドが口を開いた。
「ユウよ、すまなかった。こちらの勘違いで嫁と娘を助けてくれた恩人にこんな無礼をしてしまった。本当に申し訳ない」
ロズベルドはユウに深く頭を下げた。それを見たカルミアとローゼルはとても驚いていた。それもそのはず、一国の王がただの冒険者に頭を下げているのだ。
「そんな、頭を上げてください」
「良いのか、だがそれではまだ気は収まらん何か褒美を遣わそう」
「えっ、そんな急に言われても・・・」
「だったら王宮通行書を渡すのはどうかしら」
突然のことで驚いているとカルミアが驚きの提案をしてきた。王宮通行書それは限られたごく一部の人に与えられるこの王宮に自由にできる通行書の事である。
「そうだな、それがあれば娘のローゼルにいつでも会いに来てもらえるな。それに恩人にはこの通行書を渡しておくべきだろう。それでよいかユウ」
「はい、喜んでお受け取りいたします」
そうしてユウは王女誘拐の冤罪を晴らし王宮通行書を手に入れた。
「ユウさん本当に帰られるのですか?まだお話ししたいことがたくさんあるのに」
ローゼルはさみしそうに聞いてきた。
「ごめんね、ローゼル。わたしも話したいことがたくさんあるんだけど迎えが来てるから帰らないといけないんだ。それに通行書もあるからいつでも会えるよ」
「そうでした、また会えますもんね。引き留めちゃってごめんなさい」
王宮の外でローゼルと別れユウは王都の南門へ歩いた。そこにはルイナたちが待っていた。
「遅いぞユウ」
「ご主人様、箒です」
「ありがとう、リリィ」
「さぁ、家に帰りましょう!」
ユウは箒に乗り王都を後にした。この数日起きたことを振り返り家に帰った。
王都のギルドハウスへ元王宮魔導士エネシアが起こした事件の事情聴取をし、商業区で買い物をしたあと盗賊に追われていたローゼルを助け家に連れて帰ったら誘拐犯になり王宮地下の牢屋に入れられて脱獄して逃げた先の部屋で赤魔の衰病を患っていたカルミアと出会いそこでローゼルとも再会して赤魔の衰病を治して国王ロズベルドに王女誘拐の誤解を解きに行ったら処刑を宣告されたと思ったらあの時の盗賊が縛られた状態で運ばれてきてローゼルが追われていた日のことを正直に話したら誤解が解けて王宮の通行書をもらた。改めて思い返してみると中々に濃い日を送っていたみたいだ。
ユウは家に帰ってリリィの作ってくれたご飯を食べお風呂に入ってすぐに眠りについた。




