第15話 王女の病
天井から水が滴り落ち、壁にはクモの巣が張ってあり木で作られた机とイスは破壊されていた。この薄暗く気味の悪い場所は王宮の地下にある牢獄だ。ユウは王女ローゼル・ハイビスの誘拐容疑でこの牢獄に収監された。
「ここが王宮の地下にある牢屋だよね・・・うーん、拘束されてから記憶がない」
目を覚ましたユウは辺りを見渡した。周りにも同じような牢屋がある。この牢獄に居る囚人をを監視するように巡回している。
「早くここから出てカルミア、今はローゼルだっけ、とにかく会いに行かなきゃ」
ユウは服の内側のポケットを探りナイフを取り出し檻を切りつけた。だが檻を守る防御結界で弾かれてしまった。
「この結界、物理攻撃と魔法攻撃を遮断するやつだよね。出れる場所は一つしかない、檻から腕は出せる。後は、鍵があれば出れるか。なら、ジョブチェンジ!【盗賊】」
ユウのジョブが魔法使いから盗賊へ移り変わった。盗賊の能力は足音を消し隠密行動が可能になる。そしてもう一つの能力、【アイテムスティール】視界に入った物を音を立てず手に入れることができる。この能力を使って巡回している王宮騎士の腰についているカギを奪い脱走する作戦だ。
「見つけた、腰の部分。【アイテムスティール】!」
ユウは王宮騎士の腰についているカギに視線を合わせ【アイテムスティール】を使うとユウの右手に檻のカギが移っていた。
「よし、成功!あとはタイミングを見計らって檻を開けてあっちの扉から外に出るだけ」
監視をしている王宮騎士が後ろを向いた隙に檻の隙間から腕を伸ばし鍵穴にカギを差し込んだ。
檻はゆっくりと開き王宮騎士の後ろを走り扉から外へ抜け出した。階段を駆け上がり木製の扉を開けるとそこは王宮の階段裏だった。
「こんなところに出るんだ。てっきり王宮の外へ出れるものだと思ってた。まぁ、ローゼルを探すならこれでいいのか」
ユウが王宮の中を歩いていると数人の騎士があわただしく動いていた。
「地下牢から囚人が逃げ出したぞ!まだ王宮の外には逃げていないはずだ見つけ次第取り押さえろ!」
「やば、早く逃げないと」
ユウは階段を上がりその場から離れたがすでに王宮の中を多くの騎士たちが動き回っていた。ジョブチェンジ!【盗賊】は隠密行動はできるが完全に姿を消している状態ではないため視認されればこの効果は意味をなさなくなる。
「しばらく隠れられそうな場所探さなきゃ」
騎士に見つからないように慎重に行動しながら身を隠せそうな場所を探しに向かった。さすがは王宮たくさん部屋があるが迂闊には開けられない。もし中に人がいれば大声で近くの騎士に報告されゲームオーバーになってしまう。なので人のいない物置みたいな部屋を見つけたい。
「うへぇ、外にも王宮騎士がいるよ外に逃げるにしても外を走るのは使えないか。箒もないし空を飛ぶのもできないのか。おっと、危ない」
逃走経路を考えながら歩き曲がり角を曲がると騎士が正面から歩いてくるのが見え慌ててきた道を戻っていたら今度は正面の曲がり角も、騎士が歩いてくるのが見えてしまった。
(ヤバイ挟まれた!)
ユウは慌てて近くの部屋の中へ入った。そのまま部屋の奥へ進むと暖かな木漏れ日の下にベットの中から外を見ている桃色の髪をした女性がいた。
「あら、珍しいお客さんねどなたかしら」
その女性は優しい声をしてこちらを向いたがその眼にはこちらが映っていないように見えた。
「わたしはユウです。しばらくこの部屋に居させてもらってもいいでしょうか」
「えぇ、いいわよ。好きなだけいて頂戴。その代わり私の話し相手になってもらうけどいいわよね」
「はい、そんなことでいいのであれば」
「ありがとう。自己紹介がまだだったわね、私はカルミア・ハイビス。この国の王女よ。よろしくね」
彼女は笑顔でそう名乗った。カルミア・ハイビス、ローゼルの母親だろう。あの綺麗な桃色の髪は母親譲りの者だったのだろうよく似ている。 王女が母親のカルミアならばローゼルは代理で王女の仕事をやっていたのだろう。
「ユウちゃんはローゼルのお友達なのよね?」
「そうですけど、どうしてそれを知ってるんですか」
「あの子が昨日話に来てくれたの。とても楽しそうにあなたの事を話していたわ。だから私はあなたが誘拐犯だなんて信じてないの」
カルミアは微笑みながら話しているがやはりこちらを視えていないように感じる。
「あの、もしかして私の事視えてませんか」
「・・・そうなの。実は数年前から王都の医者でも直せないような病気を患っているの。赤魔の衰病って言ってねこの身体を時間をかけて蝕んでいくの。最初は普通に暮らせていたの、だけどだんだん身体が悪くなってうまく歩けなくなり目の前から光が無くなったの。それだけじゃないわ最近は身体に力が入らなくなってきたの」
カルミアはただ虚空を見つめていた。赤魔の衰病、もちろんユウはこの病気を知らない。だがふとユウの頭に『わたしなら治せるかもしれない』そんなことがよぎってしまった。
ユウは静かに【盗賊】から【医師】にジョブチェンジした。
【医師】の能力は病の核を見つけ出し即効性のある薬を作り出すことができる。
カルミアの手を握り病の核を探し始めた。
(・・・あった、あれが病の核。赤い刺々したツタが病の核からたくさん伸びてる)
「ユウちゃん私の手を握って何してるの?」
「赤魔の衰病を解析してるんです。わたしなら治せるかもしれません」
「面白いこと言うのね。ユウちゃんは冒険者でしょ」
「今はこの世界どこを探してもいない優秀な医者ですよ」
ユウは作り出した赤魔の衰病の特効薬が入った瓶を持ちながらにこりと笑顔を見せた。
カルミアの体を起こしユウは赤魔の衰病の特効薬を飲ませた。
すると身体を蝕んでいた刺の付いた赤いツタは消え赤魔の衰病の病の核が消えた。それと同時にカルミアの眼に光が戻り握っていた手にも力が宿ってきた。
「カルミアさん、わたしが視えますか?」
「えぇ、視えてるわ。それに身体にも軽い気がするわ」
「赤魔の衰病はあなたの身体から消滅しました。これで今まで通り生活できますよ」
「本当なの・・・ありがとう・・・」
ユウが軽く微笑むとカルミアは涙を流しながらユウに感謝を伝えた。今はちゃんとユウのことが視えているようだ。
「ユウちゃんはこれからどうするの?王女の私にできることがあれば何でも言ってちょうだい」
「わたしは一度ローゼルに会いたいですね。それと可能ならローゼル誘拐の誤解を解きたいです」
「ローゼルならそのうちこの部屋に来ると思うわ。誘拐した誤解は・・・直接主人の所へ行きましょう!」
カルミアは笑顔で手を叩いて面白そうにそう言った。
「主人って国王様ことですよね、無理ですよそんなのだってわたし国王様から見たら誘拐犯で脱獄犯ですよ!」
「安心して、私も一緒に行くから。それにあの子を外に出したのは私だから怒られるときは一緒よ」
「ローゼルは外に出て行ってはいけなかったんですか」
「そうなの。私が赤魔の衰病で寝たきりになってからローゼルは私の代わりに王女として仕事をしていたのだけどある日、王宮の中は退屈だから外に出たいって私にお願いしてきたの。だけど主人は心配性な人だから娘が自分の目の届かない場所に居て欲しくないから反対していたみたいだけど私はもっと世界を知ってほしいからコッソリ王宮から抜け出せれる道を教えてあげたの。そのせいで娘が誘拐されたって騒ぎになってユウちゃんに迷惑をかけちゃって本当にごめんなさいね」
「気にしないでください。カルミアさんのおかげでローゼルと出会えたわけですし」
そんな会話をしているとコンコン、扉がノックされ誰かが部屋に入ってきた。
その音を聞いて慌てて窓から逃げようとしたユウにカルミアは「大丈夫よ」とだけ言った。
そして扉が開き誰かが入ってきた。
「ユウさん!?」
「え、ローゼル!?」
なんとカルミアの部屋にやってきたのはローゼルだった。驚いている二人をカルミアはニコニコしながら眺めていた。




