第14話 失踪した王女
ユウたちが王都から帰ってきたのは陽が落ちた頃だった。
「すぐご飯作るから待っててね」
「私もお手伝いしますご主人様」
ユウとリリィはキッチンへ移動し夕食の準備を始めた。ルイナたちはオセロの遊び方をカルミアに教え仲よく遊んでいた。
ルイナたちのオセロ対決が終わるころ丁度夕飯ができた。
「みんなおまたせ、今日のご飯はピーマンの肉詰めだよ」
ユウとリリィは大きな皿に盛られたピーマンの肉詰めをルイナたちの待つ机の上に置いた。
「おぉ、ピーマンの中にちっちゃいハンバーグがあるぞ」
「始めて見る料理です・・・おいしそう・・・」
「たくさん作ったのでどんどん食べてくださいね」
ユウたち五人は大きな皿二つに盛られたピーマンの肉詰めをあっという間に完食した。ルイナはピーマンの肉詰めを気に入ったのかまた作ってくれと懇願していた。次作るときはお米が欲しい。
(そもそもこの世界にあるのか?王都には無かったし)
そんなことを考えながらお風呂に入り眠りについた。
翌朝、朝食を作るため早起きしたユウはリビングへ行くとカルミアが窓の外を眺めていた。
「おはようカルミア、早起きだね」
「ユウさんおはようございます。早起きは習慣なので大体この時間には目が覚めるんですよ」
カルミアは笑顔で答えた。
「もしかして朝食の準備ですか?私も手伝います」
「じゃあ一緒に作ろうか。こっちおいで」
ユウはジョブチェンジ【料理人】を使いカルミアと一緒に朝食を作り始めた。朝食はいつも軽いものを作るようにしている。今日はサンドイッチと野菜のスープだ。
「・・・ユウさんは何か将来の夢みたいなものを持ってますか?」
カルミアは唐突にそんなことを聞いてきた。何か悩みがあるのだろうか声のトーンが低いように感じた。
「わたしの夢は・・・」
言葉が詰まった。自分の夢を話すことはユウにとってそう容易くないことだった。
昔、ユウは自分の将来の夢を親やクラスメイトに話す機会があったが笑われ否定されたことがあり以来それがトラウマとなりユウが心を閉ざし部屋に引きこもるきっかけになったのだ。
それでも勇気をだして話してみようと思った。
「・・・笑わないで聞いてほしいんだけど、私の夢は人間と魔族が一緒に暮らせる世界を作ることだよ」
「人間と魔族が一緒に暮らせる世界・・・」
「そう、その第一歩としてこの場所がある。確かにわたし達人間からしたら魔族は討伐対象だし共存するのは難しいよね。でもそれは人間が勝手に魔族を敵視しているから、魔族は悪だと教わってきたから。でも、わたしは知っている魔族は悪い奴ばかりじゃないって、ルイナもリリィもミゼも魔王だって人間に友好的だった。だからわたしは人間と魔族が一緒に暮らせる世界を作りたいんだ。それがわたしの夢なの」
「その夢私にも協力させてください」
ユウは驚き声が出なかった。カルミアの口から出た言葉は笑うでも否定するでもなく協力だった。
「ユウさん?」
「あぁ、ごめんちょっと驚いてて・・・ありがとうカルミア笑わないで聞いてくれて」
「何言ってるんですか笑うわけありませんよ」
カルミアは優しくユウに寄り添った。
朝食が出来上がるころルイナたち三人が起きてきてともに朝食を食べた。
「わたし達今から村のギルドハウスに行ってくるから留守番よろしくね」
朝食を食べ終わったユウとカルミアはギルドハウスがある村まで歩いた。
「ずいぶん賑やかな村ですね」
「そうでしょ、この村はいつもこんな感じなんだ。あ、見えてきた。あれがこの村のギルドハウスだよ」
ユウはカルミアを連れてギルドハウスの中へ入っていった。
「ユウさんお帰りなさい!王都はどうでしたか」
ギルドハウスへ入ると受付嬢のライムが出迎えてくれた。
「見たことないものばっかり売ってて面白かったよ。はい、お土産」
ライムに王都で買った花柄のイヤーカフを手渡した。
「どうですか?」
「うん、似合ってる可愛いよ」
ライムは両手を自分の頬に当て嬉しそうにほほ笑んだ。
「そういえば王都で王女様が失踪したみたいですよ。王室から捜索書が発行されて王国騎士ならびにギルドに登録している冒険者総出で捜索中みたいです。今朝このギルドハウスにも捜索書が届けられたんですよ」
ライムから捜索書を受け取り一通り目を通した。
王女の年齢は15歳、特徴的な桃色の長い髪そして首にはペンダントをかけている。
「名前はローゼル・ハイビスか、聞いたことないな。カルミアは何か知ってる?」
「い、いえ何もし、知りませんよ」
カルミアは慌てるように答えユウの後ろに隠れた。
「意外とシャイな子なんですねぇ」
ライムに見送られユウとカルミアはギルドハウスを出た。
誘拐された王女ローゼル・ハイビス、あまりにもカルミアと特徴がよく似ている。
帰り道後ろを歩くカルミアの方を見るとローブを深くかぶり下を向いて歩いていた。どうにもこちらから話しかけれるような雰囲気ではなかった。
「あの・・・」
突然後ろを歩いていたカルミアに手を握られ動きを止めた。
「どうしたのカルミア」
「も、もし失踪した王女が目の前に居たらどうしますか」
カルミアの握った手がわずかに震え始めた。
「どうもしないよ、きっと王女様にも何か事情があったんじゃない。それに捜索書の内容を聞いてカルミアがどう思ったかはわからいけど何があってもわたし達はあなたの味方だからね」
ユウは優しくカルミアの頭に手を置き頭をなで再び家へ向かい歩き始めた。
遠くに家が見え始めたとき待ち伏せていたかのように茂みの中から鎧を着た大人数人と金髪の女性ががユウとカルミアを囲った。鎧には王国の刻印が刻まれていたので王国騎士だろう。
「家に帰りたいの、そこを通してくれる?」
「残念ですがあなたを家に帰すことはできません。王女誘拐の疑いで拘束させていただきます」
金髪の女性の一言で王国騎士たちはユウを縄で拘束した。
「ちょっと、何するのよ!」
「やめなさいラミナ、今すぐユウさんの拘束を解きなさい!」
「申し訳ございませんローゼル様、これはロズベルド様のご命令ですので」
「お父様が・・・」
ロズベルド、その名を聞いたローゼルは抵抗することをやめおとなしくラミアという金髪の女性の指示に従った。
「さ、帰りますよ」
この日ユウとローゼルは家へ帰ることはなくユウは王宮地下の牢獄へ送られた。




