第11話 ゴーレムを操る魔術師
ミリティアが魔王になってから随分と時間が経った。相変わらずユウたちは自由気ままに過ごしている。そんなある日村のギルドハウスに行くとクエストボードの前に何やら人だかりができていた。そこへ行くと行方不明になった冒険者の名前が書かれた紙が張り出されていた。
「ねぇライムちゃん、いったい何があったの」
「王都カルミアの近郊の洞窟に行った冒険者数名が帰ってこない事案が発生したんです」
「もしかしてこの村の冒険者も」
「はい、村一番の冒険者モデウスさんのパーティーが帰ってきてないんです。もしユウさんもあの洞窟に行くのでしたら私に一声かけてください」
ライム・フェルナ、この村のギルドで働くわたしと同じくらいの歳の受付嬢だ。ライムはこわばった顔をしながら口を開いた。さらに詳しく話を聞くと行方不明になった冒険者の中には高ランクの冒険者がいたという。今も王都や各地の冒険者ギルドから捜索隊が派遣されているが五日間何も連絡がないらしい。
そんな話を聞いてユウは家へ帰りその話をルイナたちにした。
「助けに行くつもりなら早い方がいい」
「それはそうなんだけどなんでミリティアがいるの」
ソファーに座っていたのは魔王ミリティアだった。どうやらミリティアはユウが返ってくる前に遊びに来ていたらしい。従者のサフィーナとルディーナは魔王城で仕事をしている。
「私は仕事でここに来たんだ。その例の洞くつについてだが放っておくとダンジョンになる可能性があるんだ」
「ダンジョンになるってどういうこと」
「ダンジョンとは洞窟で死んだ人間や魔物の魔力を地脈が吸い取りその姿を変える。だから私はそれを止めに来たんだ」
ミリティアはユウたちに洞窟のことを話した。なんでもあと数日で洞窟がダンジョンになるという。
「だから早く洞窟に行かないといけないのか」
「そう、でないとダンジョンで生み出された凶暴な魔物が近隣の村や街に被害が出る。その前に」
するとはユウの手を取りゲートを作り出した。
「ほら、行くぞ」
「え、ちょ、ちょっとまってぇぇ」
ユウはミリティアに手を引かれゲートの中へと入っていった。ゲートから出るとそこは洞窟の前だった。
「あなたもついてきたのね」
ユウの後ろにはルイナがいた。
「ユウについていくのは当然だ。それと魔王様、ユウを突然連れて行くのは今後やめていただきたい」
ルイナはユウの腕をつかんでミリティアをジト目で見つめた。
三人は洞窟の中へと入っていった。ユウはジョブチェンジ!【トレジャーハンター】のスキルの一つであるホログラムマップを使いながら奥へと進んだ。マップには青い点が十個ほど一ヶ所に固まっておりそこに一つ赤い点がありその道中に無数に赤い点がある。
「おかしい、魔物がいる表示があるのに目の前に魔物が一匹もいない」
「壊れてるんじゃないかそれ」
「そんなことない、だって今もこの赤い点は動いてる」
赤い無数の点は洞窟内を徘徊しており止まる気配がない。
「ユウ、ルイナ周りを見てみろ」
「壁が動いて・・・」
「道が変わった・・・」
ユウたちが通ってきた道が急になくなり新たに二本の分かれ道が生成された。
しかしユウのホログラムマップには新たに生成された分かれ道はなかった。
「まさかこの洞窟に居る魔物はゴーレムなのか」
「だとしたらユウのホログラムマップに映っているこの孤立した赤い点が使役者なのか」
ゴーレムそれは土や鉄に死者の魂を入れた魔物で使役者の命令なしには自分で動くことができないのだ。
「じゃあこのゴーレムを倒せば・・・」
「それはだめだ、むやみに攻撃したらこの洞窟が崩れてしまう」
「じゃあどうやってこの先にいくの」
ユウは壁を触りながら考えていると一カ所だけすり抜けられる壁を見つけた。その壁がある場所はホログラムマップでは道として表記されてあった。
「ゴーレムを操るだけじゃなく幻影魔法も使えるのか」
「なんにせよこのホログラムマップ通りに進めばいいんだね」
「そうだな、先に進んでみるか」
三人はホログラムマップの通りに奥へと進んでいった。魔物がいる表記があるのにまだ一体も見ていない。とくに何もないまま洞窟の一番奥までやってきた。
そこには行方不明になっていた冒険者たちが座り込んでいた。
「大丈夫ですか!早くここから出ますよ」
ユウは冒険者の一人に駆け寄り声をかけた。
「嬢ちゃんもこの洞窟に入ってきちまったんだな。残念だが俺たちはここから出ることは出来ねぇ」
男はどこか遠くを見る様な目でユウの呼びかけに答えた。
「どうして?壁は幻影なんだよ、来た道を戻ればここから出られるのに」
「そうだな、確かにあの壁は幻影だ。だが、俺たちは監視されてるのさこの洞窟から逃げ出せない様にな」
そう男が言い終わると突然壁に無数の目が現れた。
慌ててホログラムマップを見るとユウ達がいる場所が赤い点で囲まれていた。
「また人間がやってきたのね・・・あら、人間以外もいたのね」
目の前の壁が開かれ中から大きな杖を持ち長い黒い髪を払って若い魔術師の女が出てきた。
「ゴーレム、その人間をとらえなさい」
魔術師の女がそう命じると壁の中から三体の小さなゴーレムが襲い掛かってきた。
「ユウ危ない!」
襲い掛かる三体のゴーレムを間一髪のところでルイナが魔剣で切り払いユウを守って臨戦態勢に入った。
「待ってルイナここで戦うのは良いけど冒険者たちを巻き込んじゃう」
「ならわたしが何とかしよう」
ミリティアは冒険者たちの下に洞窟の外につながるワープホールを作り冒険者たちを逃がした。
「あんたよくも、ゴーレムやっちゃいなさい」
壁から次々とゴーレムたちが襲い掛かってきたがそれをルイナ一人で捌き切った。魔術師の女は杖に魔力を込めて再びゴーレムを作り出したが今度はミリティアが一掃した。
「あなた達いったい何者なの。こんなに簡単に壊してしまうなんて」
「私は魔王」
「吸血鬼だ」
「人間です」
「なんなのよあんた達、魔族と人間が一緒にいるなんてしかも魔王もいるなんて」
魔術師の女は悔しそな顔をしながら後ずさりをする。
「もういいだろお前に勝ち目はないんだ。何が目的はなんだ言え」
ミリティアが魔術師の女に圧をかけた。
「私はただゴーレムを使って人の暮らしを豊かにしたかっただけなの。なのにあの国王はお王宮魔術師の私を魔物使いだとかでたらめを言って国から追い出したの。魔術師ならだれでもゴーレムくらい作れるのにね。だから私は復讐をしてやろうと思ったのこのゴーレムを使ってね。でもそれもここまでだけどね」
魔術師の女からはもう戦う意思がないその証拠にゴーレムたちは土に還り幻影魔法も解かれていた。
「で、どうするのミリティア、まさかこの人をこのまま逃がすなんて言わないよね」
「当たり前だ。お前名前は何て言うんだ」
「エネシア・レナスといいます」
「ではエネシアお前は私の下で働け」
「え!?」
エネシアは目を丸くして驚いていた。ミリティアからすれば魔族と人間が共に暮らせる世界を実現させるためにエネシアは必要な人材だと判断したのだろう。
「本当にいいですか」
「魔王である私が決めたんだこの決断が揺らぐことはない」
ミリティアは威厳を放ちそう言った。
そうして冒険者が洞窟から戻ってこない事件は終わり洞窟にとらわれていた冒険者たちはそれぞれ村や街に無事帰った。わたしとルイナはミリティアに家まで送ってもらった。そしてミリティアはエネシアを連れて魔界へ帰っていった。
翌日
「ユウさんどうしてあの洞窟に行ったのに私に声をかけてくれなかったんですか!一声かけてくださいと言いましたよね」
「うっ、ごめんわたしも突然のことだったから・・・」
ユウはギルドに行くなり受付嬢のライム・フェルナに怒られてしまった。ライムはとても心配していたようでなかなか機嫌を直してくれない。
「そう怒ってやんないでくれライムの嬢ちゃん、ユウの嬢ちゃんは俺たちを救ってくれたんだ」
返答に言葉を詰まらせていたわたしの隣に来た村一番の冒険者モデウス・ロニスが援護に入ってくれた。
「うーん、ではモデウスさんに免じて許してあげます。ですが次はないので覚悟していてくださいね」
「分かった次からは気を付けるよ。それとありがとうモデウスさん」
「いいってことよ」
モデウスは笑顔で親指を立てた。
今日のギルドハウスは冒険者たちが返ってきたからかいつにもましてにぎやかだった。




