第7話 仁の英雄、元・伯爵嫡男に問う。
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登場してくる偉人たちは筆者のイメージに則しているので、歴史的事実や最新の研究内容とは異なっている場合がありますが、予めご了承下さい。
「魔物を食するなど、聞いたことがありません!」
エドモンドが口角泡を飛ばしながら張飛に詰め寄っている。が、張飛は柳に風で全く意に介していない様だ。
「俺ぁ元々肉屋で働いてたんだ、こんなイノシシを捌くのなんて朝飯前よ。」
そういいながら、エドモンドが止めるのも聞かずに、死んだ闇牙猪を捌いていく。
「全部で4頭いたが、2頭はもう血が固まっちまってて良くないんで、皮だけ剥いだら後であっちの小鬼やらなんやらの死体と一緒に埋めちまおう。この2頭はまだ血が固まってねぇから、さっさとはらわたを捨てちまって、血抜きもしねぇとな。」
張飛が鼻歌交じりに闇牙猪を捌くのを横目に、手の空いた村民たちは魔族の死体が身につけている物を剥がし、埋める為の穴を掘っている。
「ああ、その狼の皮も後で剥いどくから、こっちに持ってきな。」
張飛が村民に声をかける。
「レオナルド殿、少し、宜しいですか?」
怪我をした村民の手当てを手伝っていた劉備が、僕の方へやってくる。関羽も一緒だ。
召喚された魔物は基本的に術者が消さない限りはその場に居続ける。だが、この3人に関してはどうなるのか、僕にもわからない。
「この世界のこと、この村のこと、そして、あなたのことをお聞かせ願いたい。我らは身命を賭して民を救いたいのです。ですが、そもここが夢うつつの中なのではないか、という不安がぬぐえぬのです。」
改めて日の光の中で劉備の顔を見た。少し面長で優男風の顔つき、耳は人よりも長く、腕もかなり長い。そして、その瞳は強い意志をたたえる様に澄み切っている。
「わかりました。私からお話しできることは、包み隠さず全てお伝えします。その代わり、私もあなた方のことを知りません。昨夜の戦いで、皆さんが我が国で一番の騎士よりも強い豪傑であることはわかりましたが、私も、あなたたちのことをもっと知りたい。」
それから僕は、劉備と関羽にこの世界のこと、我がヴェルモン領と、かつての実家であるモンテール伯爵領が属しているエルミル王国のこと、エルミル王国があるレグナリア大陸と、はるか海を渡って西の果てにあるアルヴァルオン大陸のこと。
魔法とは何か、何故僕がモンテール伯爵家を廃嫡され、このヴェルモン領に流されたのか。
魔族とは何か、魔物とは何か、僕と、途中からはエドモンドも加わり、2人に説明した。2人は黙ってそれを聞いていた。
「なるほど、それでは、レオナルド殿、あいや、領主殿はその召喚術という力を持っていたが為に廃嫡され、この地に流された、と?」
関羽が髭をなでながら訪ねる。僕がそうです、と答えると。
「しかし、それも妙な話ではありますなぁ。確かにその召喚術とやらが忌避される様な下賤な術だったとして、それだけで有力な貴族が廃嫡したりするのでしょうか?聞けば、領土もそれなりにあり、多くの兵を抱えている、とか。下手をすれば、跡目争いで戦が起こりそうな気もしますが?」
「十中八九、その弟君が前々から跡取りの座を狙っていたのであろう。劉表殿が亡くなられた時、外戚の蔡一族の策謀で劉琦殿ではなく弟の劉琮殿が家督を継いだ。私にも詳しいことはわからないが、恐らくはそのヴァランタン侯爵とやらと、レオナルド殿の弟君が繋がっていたのではないかな?」
首をかしげる関羽に、劉備が振り返って答える。ありえない話ではないな。
「レオナルド様はそのお優しい人柄から、兵や民衆からも慕われており、実際に廃嫡とされた際には騎士の中にはレオナルド様を担いで立ち上がろうとする者もいたのです。ですが、レオナルド様がそういった者たちに声をかけ、アレクサンドル様に忠節を尽くすように、と。」
エドモンドの言うとおり、あの時の僕には父と弟に対して反乱を起こす、という選択肢も無いわけではなかった。だが、強大なヴァランタン侯爵が弟の後ろ盾に付いている以上、勝ち目はほとんどない。
「まずはこのヴェルモン領を復興し、自立できるだけの力を付けるしかないと思う。そうしなければ、僕は何もできず滅びを待つだけだ。」
僕の言葉に、エドモンドも、劉備と関羽も頷いた。張飛は村民たちと楽し気に話しながら、闇牙猪と双頭狼を捌いている。
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