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第20話 初めての農作業

誤字・脱字・不明な表現等があればコメント欄でご指摘お願いします。

登場してくる偉人たちは筆者のイメージに則しているので、歴史的事実や最新の研究内容とは異なっている場合がありますが、予めご了承下さい。

 結局、一月ほどで一反の広さの畑が11面と、水路付きの農道が完成した。

 その間、特に村が襲われることもなく、追放されてから初めて平穏な時期を過ごした気がする。

 畑に植える作物の種や苗、それに薪の備蓄も進んでいる。

 余剰になった分は日々の食用に回し、保存食にできる物は加工して倉庫での備蓄を進めている。


 今日は作付けの日だ。

 皆で相談して、一斉にやろう、ということになった。これは、秋に向けて豊作を祈願する為の物でもある。

 この日の為に準備が進められた畑は、僕がこの村にやってきた時から考えると全く見違えていた。整備と手入れの行き届いた農地は美しくすら感じられた。

 種もみの量などから、作付けはそれぞれギーツ麦3、ライン豆2、エルフ蕎麦2、コラ芋2、ザイン大根2で割り振り、村民総出で植え付けを行った。


 金次郎の指導通り、一定の間隔をあけて作付けを行った。

 種まきと言えば、言葉通り畑に種をまくのが普通だと思っていたが、それだと間隔がバラバラになってしまって芽が出ない部分や、同じ場所から何本も芽が出てお互い土の養分を奪い合ってうまく育たなかったりすることがあるそうだ。

 出来るだけ効率的に、多くの作物を収穫したいので、この様な作付けの仕方になったらしい。


 早朝早くから始めて、昼前には作付けは全て終了した。

「皆さん、ご協力頂いてありがとうございました。まずはひと段落ですが、来年に向けて畑の整備は続けていきたいと思っております。引き続き、ご協力をお願いいたします。」

 皆の前に立ち、金次郎はそう挨拶を述べると、深々と頭を下げた。

「これまで、さまざまな場所で同じ様なことをして参りました。最初は私の言っていることをなかなか受け入れてもらえず、思い悩んだこともあります。しかし、皆さんは私の話を素直に聞いて下さった。そして、人が嫌がる作業でも率先して引き受け、お互いの足りないところを補い合いながら懸命に働いて下さいました。不肖、この二宮金次郎、皆さんのその姿に心打たれました。心から礼を申し上げます。」

 その言葉を聞いて、村長が一歩前に出た。

「金次郎さん、それはあなたが必死に、そしてあなた自身が皆の先頭に立って大変な作業をしていたからです。何年もの間、私たちはその日暮らしの生活を続けてきました。魔物や盗賊におびえ、僅かな食料で食いつなぐばかりの生活を本気で変えようとしてくれた。こちらこそ礼を言います。ありがとうございました。」

 村長は金次郎の両手をしっかりと握りしめ、二人は目に涙を浮かべながら互いに頷き合った。


「ご領主殿、あなたにも礼を言いたい。」

 金次郎が僕の方に向き直って言った。

「あなたは、出会って間もない私のことを信頼し、全てを任せて下さった。私はあなたに呼ばれてここに参りましたが、それでも、あなたの様にすべてを任せて下さる様な方は中々いません。あなたは私がお会いした中でも、最も名君の資質を持った方とお見受けします。どうか、そのお心を忘れずにいて下さい。」

 金次郎がにこりと微笑んで僕に語り掛ける。

「金次郎殿の言うとおりだ。あなたは部下を信頼し、その力を存分に発揮させようとして下さる。これは得難い資質です。」

 劉備も、金次郎の言葉に頷いている。

「レオナルド殿、長兄の申す通り、人を信じる、というのは非常に難しいことでございます。ですが、信じすぎてもいけません。将来、きっとあなたを騙そうとする輩が現れるでしょう。もしそうなったとしても、その人を信じることができる、という資質をどうか失わないで頂きたい。」

 関羽が劉備に同意して言った。張飛は慣れない作業で着かれたのか、その隣で舟をこいでいる。

「皆さん、ありがとうございます。僕は召喚術が使えはしますが、それ以外には何の力もありません。ですが、この村を、この領地を立て直して、皆さんが笑顔で暮らせるようにしたいと心から願っています。その為に一番必要なことは、皆さんの力を信じることだと僕は思います。ですから、これからも僕に力を貸してください。」

 僕は立ち上がって頭を下げた。


 その後、ささやかではあるが豊作を願って昼食も兼ねた宴を行った。

 秋の収穫まではあまり備蓄の食糧にも手が付けられない状態ではあるが、昨日、張飛が捕えてきた魔物の肉を煮込んだ大なべを囲んで、談笑した。

「この世界にもだいぶ慣れて来たけどよ、こういう宴の時に酒が飲めないってのが寂しいなぁ。」

 張飛が大きな肉の塊を頬ばりながら残念そうに話している。

「そうか?ワシはお前の酒癖に付き合わんで良いからせいせいしているぞ。」

 関羽がそれを聞いて、呆れた様に答える。

「翼徳、前世ではあれだけ酒で苦労したのだから、自嘲しなければいかんぞ。」

「わかってるよ。俺だって昔の行いは反省してるんだ。」

 劉備と関羽から二人がかりで責められて、張飛がふくれっ面になる。


「今すぐ、というわけにはいきませんが、収穫が安定してきたら酒の醸造も試してみましょう。こちらの世界では葡萄酒と麦酒が多く流通している、と聞きました。葡萄はともかく、麦は収穫できますし、他にも試せるものがあるかも知れません。」

「本当か!酒が造れるのか!?」

 金次郎がそう提案すると、張飛がとびかかる様にして金次郎に掴みかかった。

「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい。飲みすぎはよくありませんが、人というのは酒を飲みたがるものですし、質の良い酒が造れれば売れるかもしれません。試してみて損はないでしょう。」

 興奮気味の張飛を関羽が引きはがす。

 金次郎は前の世界の時、農地開拓と合せて作物の商品化などを行ったことがあり、その際に酒造りも行ったことがあるそうだ。

 とはいえ、現状では商人との取引ができる状況でもなく、実現するとしても何年もかかりそうだ。

ご拝読ありがとうございます。

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