間話 ある日の研究室
三章開始前ですが、幕間を書きました。
これは北領に向かう旅の途中、レスが魔導具作成のために一時デルニエールの研究室に戻ることになった時のことである。
仮の転移魔導具を設置し、デルニエールに一時帰還を果たしたレスとリム(とテネ)とロン。ゾーイとミーナ、エルは設置した転移魔導具を見張る必要があるため、『魔導装甲車』にてお留守番である。
「ロンさんはモルさんのところに出かけたのかな?」
「ええ。嬉しそうに向かっていきましたよ」
ロンが珍しくソワソワしている様子にレスは察し、モルのところに遊びにいってはどうかと提案したところ、笑顔で出かけていったところだ。
「ふふ。ロンさん、最近髪の毛伸ばしてることにリムは気付いた?」
「あら、もちろんです。この私が見逃すはずがないじゃないですか」
デルニエールの研究室で作業をしながらレスとリムは他愛ない会話を続けていると、レスの視界にあるものが映り込んできた。
研究室のすみっこの方で燻る火の塊。塊は小さく、今にも消えてしまいそうなまさに風前の灯火である。
「..ねえねえ、リムさんや」
「はいはい、マスターどうしました?」
「あの部屋のすみっこ。なんか前もこんなことあったよね?」
「あらまあ。あれは精霊さんですね?ふふ。テネを思い出します」
「む」
やはりそうかとレスは火の塊を見やる。レスとリムのやり取りに反応し、テネもレスの影から姿を表した。
「和んでる場合じゃないよね?また消えちゃいそうだよ」
「そうですね。マスター、また手助けしてあげましょう」
急いで火の塊の元に向かうレス。テネがレスの肩に座りながら少し警戒を続けている。
「火の精霊っぽいから火魔術だね」
「そうですね、マスター。テネの時のように安定するまで充ててあげてください」
レスは魔眼を発動し、様子を見ながら火魔術の『種火』を行使する。優しく、魔術の火で魔力を受け渡すように込めていく。次第に安定し始める火の塊。
「おお、なんかガンガン魔力を持ってかれるね」
「遠慮のない子。なかなかに強欲ね」
「む」
受け渡すように魔力を込めていたが、今は逆に吸われるように種火が吸収されていく。レスもそれならとどんどん魔力を強めていく。次第に火の塊は安定し始め、弱弱しい火から力強い炎の塊に変化していく。
「安定してきたみたいだね。もう一息かな」
「あら?もう自我は芽生えてますね?」
「うん。レスの魔力が心地よくて吸ってるだけ」
リムとテネの言葉を受けて、レスは火魔術の行使を終了する。火の塊は直径20cmほどの炎の球体に変化していた。
「よかった。ちゃんと存在を維持出来るみたいだね。俺はレス。よろしくね」
火の精霊はレスに近づき、顔の前で静止した。気持ち微振動している様子なのでレスの言葉は理解出来ているようだ。
「同胞よ。初めまして。私は精霊を超越した存在。究極生命体のリムと申します」
「テネの時とまったく同じセリフだね?」
「あら、当たり前です。これは通過儀礼のようなものです」
マウントリムは健在だ。テネの時は怖がって隠れてしまったが、この火の精霊はまったく臆することなく、リムにプルプルと反応を示している。
「ほら、テネも挨拶をしてあげて?」
「ん。テネ。あなたは3番目。序列は守って」
3番目かと少し苦笑いのレス。
「じゃあ、名前もつけてあげようかな。うーん」
レスはテネの時と同じように火の精霊に名前をつけてあげることにした。テネは闇に由来している。必然と火の精霊の名前も同じようにしようと考える。
「よし、君はファイにしよう。今日から君の名前はファイだよ」
名前を呼んだ瞬間に、球体の中の炎が強く燃え盛る。かなり気に入ってくれたようだと感じるレス。
「リム?この子、デルニエールには置いていけないよね?」
「そうですね。さすがに一人にするのは心配です」
「よし。じゃあ旅に連れていこう。これからよろくね、ファイ」
レスがファイに話しかけると嬉しいのか、了承の意を示すように火力を強めるファイ。北領に着く前に新しい仲間がレス一行に加わった。
このあと、デルニエールに戻ってきたロンにファイが懐いたことは言うまでもない。ロンには子供や精霊に好かれる何かがあるようだ。
番外編ということで北領への旅の途中の出来事を投稿しました。
現在は新作の「タイムトラベル転生者」を連載中で、三章再開は未定のため、一時完結にしております。
新作を投稿しながら三章以降のお話を練っていこうと思います。




