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第34話 エルの適性

 ニニの返答を静かに待つレス。レスの視界の隅にいるドムがそわそわしているのが印象的だ。


「たしかに。卸しについてはこちらから相談したことではありますが、レスさんからのご提案のほうがよりよい関係になれそうですね。わかりました。契約することを前提に詳細を教えてもらってもよろしいでしょうか」


「承諾ありがとうございます。ニニさん」


 レスはアルカイックスマイルでニニと握手を交わす。


「はぁぁ。笑顔もステキ」


「よっし!!さすがニニだ!断るわけないと思っていたぞ!..ん?ピピどうした?顔が気持ち悪いぞ!?」


「!!!」


 次の瞬間、顔に青筋を立てたピピが凄まじい速度でドムの顎を横から殴り抜く。ドムは白目を剥いてテーブルに突っ伏した。


「お父さんはもう少しデリカシーを学んだほうがいいと思う」


「そうね。あとでちゃんと言っておくわね」


「..レス、今のパンチ見えたか?」


「..いや、ゾーイさん。俺にも見えなかったよ」


「やるわね。今度模擬戦を・・」


「ミーナ様?」


 閃光のような一撃にレスとゾーイが驚愕し、ミーナが興奮するがエルに諌められる。ドムは女心には無頓着なようだ。後で訪れる修羅場が想像出来る。


「ひとまず、今日は簡単な内容だけご説明しますね」


「はい、よろしくお願い致します」


「まず、拠点の確保についてなんですが、俺たちは転移魔導具を所持しています。いまは旅の途中なのですが、各地に拠点を確保していつでも拠点間を転移魔導具で移動出来るようにしたいんです」


「て、転移魔導具だとぉ!?」


 ドム、リブート。


「ドム?少し静かにして頂戴。..なるほど。それで猫の宿り木を拠点にしたいと」


「そうです。転移魔導具を持っていること自体、広めることは出来ないので契約前提でないとお話することが出来ませんでした」


「おっしゃる通りかと思います。レスさん方は色々と訳ありのようですね」


 ニニが思慮深くレスの言葉に頷いている。


「ご理解頂いてありがとうございます。設置場所についてはモルさんとお話すればよいですかね?」


「それでいいわよね?モル?」


「いいわよ。あとで場所を決めちゃいましょうね」


「ありがとう。モルさん」


「いいのよ。私にとっても好都ご..んん!」


「モル?大丈夫?」


「ええ。何でもないわよ。気にしないで」


(ロンさんと会える機会が増えるもんね。モルさんにとってもいい話のはずだよ)


 レスは内心でモルの心情を察した。


「まあ、今日はこんな感じですかね。あとは明日、取引する魔導具の話などを詰めましょうか。俺たちも戻って内容を整理したいので」


「そうですね。そうしましょう」


「な!?殺生な!明日までお預けか!?」


 詳細は明日という流れになったのだが、ドムは耐えることが出来ないらしい。


「ドムさんには、はいこれ」


「ん?なんだ?この布切れは?」


 レスはドムに1辺15cmほどの布切れ、『治療布(ちりょうふ)』を手渡す。


「顎、すんごい腫れてますよ?魔力を込めながらその布で覆ってみてください」


「ん?こうか?」


 ドムが『治療布』で腫れた顎を覆うとみるみるうちに腫れが引いていく。


「おおおおおお!?なんじゃこりゃぁぁ!」


「「す、すごい」」


 『治療布』の効果に驚愕するよろず猫の面々。


「ふふふ。ドムさん、それも魔導具ですよ。一応取引候補の一つです」


「ほあぁぁぁ!どうなってるんだ!?これは布?布だぞ!?」


 すでに興味が全力で『治療布』に向いており、レスの言葉はあまり聞こえていないようだ。


「まったく。この人ったら」


「いえいえ、気持ちはわかるので気にしてないですよ。じゃあ、また明日お邪魔しますね」


「はい、お待ちしていますね」


「王子様、また明日ね」


 ニニとピピに失礼することを告げて、よろず猫を後にする一行。かなり濃厚な時間を過ごしたのだった。



 ***

 


 猫の宿り木に戻り、まずは転移魔導具を設置できる場所を決める話合いを行うことにした。


「モルさん、お客さんの目につきにくい場所がいいんだけど、おすすめの場所あります?」


 レスは早速モルに転移魔導具の設置場所を打診する。


「場所はもう目星を付けてるのよ。着いてきて」


 レスはモルに先導されながら、1階に設けられている厨房に案内される。


「こことかどうかしら」


 猫の宿り木の厨房は広い作りになっており、入口から見て左側に調理スペース、右側に調理のための材料を置くスペースが設けられている。正面の壁には特に窓などはなく、壁の前には十分なスペースもある。


「いいですね。理想的です。ここにさせてください」


「いいわよ。じゃあ場所はここで決まりね」


 転移魔導具の場所も決まり、あとはよろず猫に何をどのように卸すかを決めるため、いつものくつろぎスペースに戻ってきたレス。話し合いはレス、リム、ゾーイ、エルで行うことに。その他のメンバーは任せるとのことで自由行動だ。


「レス様、最初にご相談なのですが」


「ん?どうしたのエル?」


 エルが皆に飲み物を差し入れながら真剣な顔でレスへ話しかけてくる。


「今回の取引、私にもお手伝いさせて頂けませんか?」


「それはむしろ助かるけどエルってこういうの得意?」


「はい。得意というか好きなんです。イストン領でもミーナ様の侍女とは別に侯爵家の財務もお手伝いさせていただいておりました」


「お、いいね!じゃあ早速意見がほしいかな」


 レスはエルの経験に可能性を感じ、意見を促す。


「では..んん!まず、最初によろず猫に卸す商品は『治療布(ちりょうふ)』と『冷蔵機(れいぞうき)』に限定してはどうでしょう。レス様の魔導具は基本どれも流通している既存の魔導具を逸脱したものが多く、下手をするとよろず猫に注目が集まりすぎて厄介に巻き込まれるかもしれません。『治療布』についても正直、逸脱した魔導具ですが、まだギュンガで密かに発見された魔導具を唯一よろず猫で仕入れて取り扱っているという言い訳で押し通します。『冷蔵機』についてはもともとよろず猫の看板商品なので問題ないでしょう。次に卸値についてですが、『治療布』に関しては基本怪我の多い冒険者を顧客として捉えると価格帯を高く設定しても問題ないかと。販売価格の50%を卸値とすると金貨5枚でしょうか。希少な効果も鑑みた安すぎず高すぎないラインかと思います。『冷蔵機』に関してはよろず猫の販売価格の半値で卸すのはどうでしょうか。仕入れにかかる諸経費を考えれば十分利が取れると判断されるかと思います。取引の頻度についてですが・・・」


「エル・・・」


「「・・・」」


 レスが促した瞬間、流れるような提案と根拠の説明。思わずレスはエルの提案を止め、リムとゾーイは口を開けたまま呆けている。


「あ、申し訳ありません!的外れでしたでしょうか?」


 突然のレスのインターセプトにハッとなり、恐々とするエル。


「・・・エル」


「・・・はぃ」


「これからは取引全般を君に任せる!」


「え」


「これからは侍女兼魔導具取引責任者として活躍してもらいたい!」


「は、はい!」


「よろしくね!」


 レスはエルの適性を見抜き、即座に取引の責任者に任命した。戦闘に参加できないエルは常々後ろめたさを感じていたようだが、適材適所である。ここにレス一行のやり手ウーマンが爆誕した瞬間だ。


 この後はゾーイと利益の分配についての話し合いを行い、折半で利益を分配することで決着した。


 次の日、再びよろず猫を訪れた一行はニニとの最終調整に望み、エル主導の元、事前に整理した内容で契約を締結することになった。卸す頻度は基本月1回となる。魔導具の種類についてはドムと一悶着あったが、レスが『麻痺球(パラライズ)』をドム用に提供することでひとまず落ち着かせることが出来た。

 月1回は猫の宿り木とよろず猫に訪れるということでモルとピピもにっこりである。


 そして、短い間だったが濃い時間を過ごした王都での滞在も明日を最終日に。レス達は旅を再開することに決めたのだった。

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