4・工藤明と三上航大(2)
「よく行く店は、家系ラーメン。
もちろん、油マシマシ、ニンニクタップリ。
食べっぷりは、運動部男子高校生なみ」
「ああ、それは…」
いや、気持ちのいい食べっぷりだから良いんだけどね。
「僕の仕事の仕様を馬鹿にしたり、笑わないでくれるし、何より自分の仕事に一生懸命なんだよ。
素直に応援してあげたいんだ」
先輩たちにカット指導を受けて、素直に聞いている姿はとても好感持てるし、素直に応援している。
「ふぅぅん… で、親戚のお兄さんは、毎回ご飯をご馳走しているわけ?」
航大はタバコの煙を薄く吐きながら、二重の瞳を細めて僕を見ていた。
エプロン姿の店員さんが、僕が注文したデザートのプリンアラモードを持って来てくれた。
それはメニューの写真より果物とホイップクリームが多くて、ちょっと得した気分になった。
「航大の歴代彼女達と一緒にしないでくれよ。
お金は毎回折半。
最初、出そうとしたら断られたんだ。
学生じゃないからって」
「学生じゃないねぇ… まぁ、いいや。
付き合ってないなら、合コンの誘い断るなよ。
田舎のおばさんからも、「早くいい人見つけて欲しいのよ~」なんて愚痴、俺にまできてんだけど。
いい加減、結婚相手連れてこいってさ」
「ははははは…」
結婚をする気がないわけではない。
まぁ、いずれは… って感じで、今すぐにどうこうという気持ちじゃないのが本音なんだよな。
「明後日、参加しろよ。
女子は、うちの病院の支店の看護師四名。
なんなら、着せるけど? 制服」
「いやいやいや、結構です。
その後、病院にかかるたびに色々想像しちゃうから」
「想像できるうちは元気だな。
ってか、想像できるぐらいには枯れてないのな。
安心したわ」
「枯れてないって…」
「ふぅぅぅん… で、親父娘で想像できるわけ?」
いつもながら、この幼馴染は際どいところを付いてくる。
「下世話だなぁ。
だから、そんなんじゃないって」
そう言って、僕は注文していたプリンアラモードを食べ始めながら、今度さくちゃんをこの店に連れてこようと思った。
うん、見掛けより甘すぎることなく、これは美味しい。
「下世話で結構。
俺、まだまだ年頃の男子だから。
ああ、話変わるけど、お前、タクシーいつまでやるの? ずっと?」
「ん~…」
それは、故郷から出てきた理由の一つで、昔付き合っていた彼女の顔がチラついた。
「いや、何か、タクシーも面白いなぁって思ってて」
この仕事やってなかったら、さくちゃんに会えてなかったし。
今がいいから、暫くはこのままで良いかなぁ。
「まぁ、お前の問題だから、煩くは言わないけどさ。
俺はもったいないと思うわけさ。
お前がタクシー運転手で落ち着いちゃうのは。
もうそろそろ、過去は過去にしちゃいな。
親父娘って子も登場してきたわけだし。
なぁ、センセイ」
形の良い口の端を上げて、小馬鹿にしたような視線を投げてくる航大は、僕から見ても格好いいし色気があると思う。
「まぁ… うん。
少しずつね」
確かに、過去は過去なんだけれどね。
まだ、どこかで引きずっている所もあるわけで… 現状の仕事に大きな不満があるわけでもないし。
「まぁ、今の仕事なら、親父娘と時間合わせやすいしな」
一番の理由を言い当てられて、僕は苦笑いしか返せなかった。
プリンをスプーンの先で揺らしながら。