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親父娘の辞書に『乙女』の文字  作者: 三間 久士
18/28

18・キスってどんな感じ?

7・キスってどんな感じ?


 年内最後の休みは特別なものになったけれど、その記憶だけで師走を乗り切れと言われたら、それはそれで苦しかったりする。


 明さんの『特別』になってから一週間… あの日以来、見える顔はLINEに送られてくる写メだけ。

時間も合わないらしく、電話もお互いに留守電になるから、時間差のLINEだけがエネルギー源だったりする。


まぁ、お互い疲れてるから、挨拶態度の内容だけれど。

そんなこんなで、またまた(あきら)さん不足に陥っているわけで…


 営業時間が終わって、店の掃除も終わって、完全に電池の切れた俺は先輩と共にバックヤードの大きなテーブルに額をべったりつけて溶けていた。


「ほら二人とも、いつまでもテーブルに張り付いてると、店のカギ閉めちゃうわよ」


 店の最後の点検が終わったのか、店長のハスキーな声が背中から聞こえた。

うちの店長、女性にも男性にも人気の高い『オネェさん』。


「無理っスー。

 足、動かないっスー」


 俺の横で、俺と同じように電池切れになっている先輩が唸り声をあげた。


「あ、そうそう、店の新年会のビンゴ景品なんだけど、何がいいかしらね? 年末の売り上げ良かったら、資金奮発してくれるって社長が。

 他のスタッフは…」


「「肉!!」」


 ごそごそと聞こえる音から察するに、帰り支度をしているであろう店長からの質問に、俺と先輩はそのままの体勢で即答した。


「会場、焼き肉屋なのに?」


「「肉!!酒!!」」


「… あんた達、こういう時は息ピッタリよね」


 いやいや、この状態なら肉でしょう。

酒でしょう。

明日へのエネルギー源しか浮かんでこないでしょうよ。


「それにしても… 高橋、彼氏できても色気ないわね~」


「ん? 彼氏できた?

 いたろ、彼氏?」


 店長の口からサラっと出た一言に、隣の先輩が反応した。声が頭の上から聞こえるから、上半身起こしたか?


「いつの話っスか? あの馬鹿だったら、とっくに別れました」


 あっちも、忙しいだろうから、ちょっかい出してくる暇なんてないだろう。

それが救いだな。


「え!? 何? 新しい彼氏? お前に? 

 …物好きって、結構いるもんだな」


「否定しませ~ん」


 実際、人生で最初で最後のモテ期だろう。

 しかし・・・


「こんだけ忙しかったら、会う時間もないっス…」


「え? お前の寝言じゃなくって? マジで?」


 いい加減、頭の上でぎゃんぎゃん言われてウザったくなってきた。


「寝言じゃないっスよ」


「えー… お前とキスしたがる男、居るんだ」


 キス… その単語に、頬に触れた大きな手と、俺を優しく見つめる瞳が近づいてきて… 思い出した。

そうだ、あの時、もう少しで明さんとキスするところだったんだ。

 キス…


「てぇんちょぉ… キスって、どんな感じスか?」


 額を上げて、今度は顎をテーブルにつけた瞬間、店長と先輩の固まった顔が視界に入って来た。

金の短髪頭の先輩の三白眼と、店長のスクエアー型眼鏡の奥の目が、これでもかっていうぐらい見開かれている。


「… 高橋、この時期にインフルエンザは勘弁してよ?」


「昼… 食ってないから、朝か? 朝飯、変な物食ったか?」


 店長と先輩が口々に失礼なことを言いながら、俺のおでこに手を当ててきた。


「インフルでも、食あたりでもないっスよ」


 まぁ、二人の気持ちはよくわかる。

俺でも同じこと思う。


「ま、もう学生じゃないんだから、いいんじゃない? って言うか、学生以下の進行状況ね。

 … そうね、そんな初々しい後輩に、優しい先輩がプレゼントをあげちゃう」


 そう言って、店長は俺の目の前に二枚の細長い紙を垂らした。


「なんスか?」


 確り体を起こして、その二枚の紙を受け取った。



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