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別の意味でも大ピンチ?

 多数を相手にひとりで戦うときに、気をつけなければならないのはまず、挟撃(きょうげき)されないことだ。


 いくら武術の達人でも、攻めると同時に守ることは難しい。常に動き続け、敵の位置を把握し、誘導し、背後を取られないことが肝心だ。


 信頼できる味方がいるときには、背中合わせの位置取りをすれば、互いが互いの盾となり守りやすくなる。賢吾と晶はその定石(セオリー)通り、互いに背中を預けて守備の弱点を補った。


 八人の盗賊たちは武器を手に手に襲いかかってくる。彼らからすれば、小さい男と華奢な娘だ、あっという間に決着がつくと思われた。だが、そうはならなかった。むしろ小柄な体格のためか攻撃を当てにくく、逆に少しずつ押し返されていく。


「チッ! 不甲斐ないねぇ……」


 女頭目は舌打ちした。部下の不始末は自分の不始末。


 せっかく高値が付きそう若い人間がふたりもいるのに、眼の前にいながらみすみす逃げられでもしたら、彼女の面子は丸潰れだ。


 まずはひとりずつだ、と視線を走らせる女頭目は、キックで戦う晶に目を留めた。良い脚をしている。胸が平らなのは残念だが、若くて賢そうな顔立ちだ。気が強く生意気そうなところも、それを征服したいという男の欲望を掻き立てるだろう。


 この獲物だけは逃してはならない。これは金を生むガチョウだ。女頭目は手下と一対一で戦う晶の左側面に移動し、横からその腹を蹴飛ばした。


「あうっ…!」


 防御が間に合わず、晶はふっ飛ばされ硬い地面を転がる。


「女はアタシがやる。お前たちはそっちの男を可愛がってやんな」

「……させる、もんですか!」


 女頭目が命令すると、五人が賢吾を囲んだ。このままでは一方的にやられてしまう。晶は最後のスタミナを振り絞るようにして立ち上がると、女頭目と向かい合った。


「いい根性じゃないか」

「……やぁっ!」


 晶が動く。フェイントの拳、そこから本命のキックへと繋げたいところだが女頭目は、晶のパンチを前に踏み込むことで躱した。


「っ!?」


 一瞬にして間合いを詰められ、キックのために足に貯めていた力が行き場を失う。そんな体軸の揺らいだ晶の腹に、拳が突き刺さった。


「か、はっ……!」

「甘ちゃんがぁ!」


 トドメとばかりに真正面から腹に前蹴りが入り、晶の細い体は後ろへとふっ飛ばされた。だが、晶も負けていない。その攻撃は腹筋でガードし、咄嗟に自ら後方へ飛んでいた。ダメージはそこまで食らっていない。


 逆に、いい具合に距離を取れたと言える。晶は勝ち誇った表情の女頭目に無言で迫った。狙うは顎。その一点のみだ。


 だが……。


「だから、甘いって言ってんだろぉ!?」


 晶の攻撃は読まれていた。女頭目が、晶に向かって肩から突進してくる。逃げようとする晶。しかし女はそれをさらに追い、体をぶつけてガードを崩し、晶の顎に拳を入れた。


「ぐっ! あああっ!」


 脳が揺らされ、意識が飛びかけたところへさらに鳩尾への一撃。晶はあえなく地面に倒れ動かなくなった。


「へっ? お、おい、大丈夫か!」


 晶が倒されたことに気づいた賢吾がそちらへ意識を向けるが、それが盗賊たちにとって大きなチャンスとなってしまった。


 左に向かって振り向いた賢吾の、死角となった右から鋭いミドルキックを浴びせられる。その勢いで吹っ飛ばされたところへ、今度は別の男から顔面にストレートパンチが。鼻血を吹き出しながらよろけた賢吾の腹に、強烈な前蹴りと右ストレートが決まった。


「ぐへっ! ……う……くそ……」


 盗賊たちはすぐさま賢吾と晶を取り囲み、縄で拘束していった。晶は気を失い、賢吾も意識はあるものの抵抗できない。晶に向けられる男たちの下卑た笑みに、賢吾は唸った。


「俺はどうなってもいいけど、その女に手を出したら承知しないからな……!」

「承知しないだってよ、こえーこえー」

「何をどう承知しないんだよ、言ってみろ!」


 囃し立てる盗賊たちのうち、ひとりが賢吾の腹に蹴りを入れた。腹筋でガードするがさらに二発、三発と食らい、さすがの賢吾も呻き声を抑えられない。


「ぐっ……ごぼっ!」

「ははっ、ざまぁねぇ!」

「目の前でお前の女がズタズタにされてんのを見てるこったな!」

「やめろ……!!」

「やめてやんなよ。かわいそうじゃないか」


 女頭目が嘲笑しながら割り込んできて言っう。


「可愛い彼女を傷つけたくないって言ってんだからさ、そっとしておいてやんなよ」

「けどよぉ」

「代わりに、その兄ちゃんを可愛がってやったらどう? いつもいつも女が割を食うってのもおかしな話さ。……当然、耐えられるよねぇ? だって、彼女を傷つけたくないんだろ? 舌噛んで死ぬような、興ざめな真似はしないでおくれよ」

「くっそ! まさか俺を拷問する気か? 確かにどうなってもいいとは言ったが……この外道!」 

「拷問もいいけどなぁ、どうせならケツを使って楽しませてもらうか」

「……はい?」


 意味がわからない。

 いや、わかるけど、わからない。わかりたくない。


 賢吾の額に変な汗が浮かんだ。


「お? その顔じゃようやくテメェの立場がわかったみてぇだな。せいぜいイイ声でなけよ!」

「ちょ、ちょっと待った! 本気かよ……!」


 男たちがおかしな笑みを浮かべて近寄ってくる。賢吾が後ろの貞操を失う覚悟を決めかねていたとき、男たちの怒鳴り声が遠くから聞こえてきた。


「なんだ?」

「戦え! 攻め込んできたぞ! ぐあっ!」

「なんだってぇ!?」


 勇ましい掛け声と共に、剣や斧を手にした鎧姿の男たちが洞窟の中になだれ込んできた。縦横無尽に駆け回り、応戦する盗賊たちを次々と屠っていく。


「なんだ? 民間人か?」


 思わず呆然となる賢吾の頭上から、男の声が降ってきた。

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