体感型ボードゲームってヤツ
「まずは、他のタイルに乗って反応を見てみましょうよ。オーソドックスに」
「それっきゃないよなぁ」
美智子の提案に流がため息をつきながら頷く。最初に乗ったこの窪み、機械的な音がしたことから考えて幸運にも正解のタイルだったのだろう。ならばと美智子が別の窪みに乗ってみるが、その窪みからは音が聞こえない。
「ダメね、これじゃないみたい」
「おい美智子、軽率な真似はやめろよ」
「そうだよ美智子ちゃん! さっきヤバいかもって話したばっかじゃん!」
賢吾と流が同時に口を出す。美智子は肩をすくめつつ謝った。
「悪かったわよ。でも、これでハズレても危険がないってわかったでしょ?」
「そうとは限んないじゃん! カイヤとかロドウィンとか、罠があっても対処できる人間に動いてほしいなぁ〜〜」
「俺はパス」
ロドウィンからは食い気味で拒否されてしまった。
「カイヤぁ……」
「うん、私が動こう。ナガレ、指示してくれ」
「サンキュ、カイヤ!」
流が最初のタイルに載ったまま、カイヤがあちこちタイルを踏んでいくが、それ以降機構を動かすような音は鳴らなかった。
「あ〜〜、これ多分、正しい順番で乗ったときだけ解けるパズルだ! 美智子ちゃんが踏んだタイルがハズレだったから、カイヤがどこを踏んでも反応しないんだよ」
「なるほど、そういうことか」
「試しに、オレが踏んでるタイルじゃないとこ踏んでみて」
「わかったわ」
流が通路に戻り、晶に別のタイルを踏むように言う。晶が足を置いたのは流が最初に乗ったタイルの隣だったが、今度はカチッと音がしなかった。
「な? 言ったとおりだったろ?」
「ねぇ、今のうちに壁も調べておきましょうよ。せっかくだから」
美智子の言葉でカイヤが壁を調べ始めるが、何も見つけられなかった。賢吾、そしてロドウィンも壁を叩いたりこすったりするが同じく成果がない。
「ん~、確かに何もないっぽいなあ」
落胆する賢吾に流が指示を出す。
「じゃあ戻ってきて、賢吾さん。カイヤに新しいタイル踏んでもらうから。晶、オレの代わりに最初のタイル踏んで」
「お、おう」
「いいわ。どうぞ」
「じゃあ、カイヤ、ひとまずどこか踏んで」
「了解だ」
晶が乗ったタイルがカチリと音を立てる。だが次にカイヤが乗ったタイルは音がしなかった。
「今、カイヤが乗ったところはハズレみたいだな。じゃあもう一回最初から」
何度もチャレンジし、正解を見つけたら別の人間が次のタイルを探す。カイヤの次は賢吾が挑み、どうにか三つ目の正しい床を探り当てた。
「しゃあねぇな。おいガキ、どこ踏んだらいいんだ?」
「サンキュ。じゃあ、そっち踏んでみて」
「了解」
三人の立ち位置は正方形のちょうど三つの角に位置していた。四つ目の角にロドウィンが乗ると、今度はこれまでとは違い、「ガチッ」と重苦しい音が聞こえた。そして正方形のちょうど真ん中に位置するタイルが、ほんの少しだけ浮いた。それを見た流は無意識に笑みを浮かべ、美智子を振り返る。
「よし……。じゃあ、美智子ちゃん、お待たせ。最後のタイルにどーぞ」
「えっと……ここね」
美智子が最後のタイルに乗った瞬間、今度は壁の方からゴゴゴ……と大きな音が聞こえてきた。
「え? えっ!?」
「あっ、壁が!」
六人の視線は真正面の壁に集中していた。土壁の表面だけがバラバラと崩れ落ち、奥から何かがせり上がってきているようだった。音が止むとそこには、新しいパズルが出現していた。これには現地人である聖堂騎士ふたりも驚きを隠せない。
「マジかよ」
「こんな……仕組みになっていたとは」
「でもさ、これってまたこのパズルを解かなきゃならないんじゃないか?」
賢吾が冷静に指摘する。タイルから降り壁のパズルに向かおうとした賢吾だったが、その瞬間、壁が音を立てパズルが奥に引っ込み始めた。
「え? お? ええ?」
「賢ちゃん、戻って! 早く!」
賢吾が慌ててタイルの上に戻ってみると、再びパズルが出てきた。全員がホッと息を吐く。どうやらタイルの上から動くことは許されないらしいので、頼みの綱は流のみとなった。
「ナガレ、どうやら君にしか解けないようだよ」
「流、がんばって」
「しゃーねーな。いっちょやるか!」
腕まくりする素振りで壁のパズルに歩み寄る流に美智子も声援を送る。
「頑張って将棋部!」
「それはあんまり関係無いと思うが。……まぁ、頭を使うという点では一緒か。じゃあ俺たちは見てるだけだから頑張れ」
「ッス!」
突っ込みを入れつつも、賢吾も応援の言葉を送った。流はそれに手を挙げて応え、パズルに向き合った。三×三列、ぜんぶで九つのスイッチがあり、いくつかは沈み込み、いくつかは浮き上がっていた。いったい何の謎かけか。とりあえず、流は適当にひとつを選び、スイッチを押して沈めてみた。
すると、ガチャっと音がして別のスイッチが浮き上がる。そのスイッチを押してみると、今度は別のスイッチが浮き上がってしまった。それを見ていた美智子が、あっと声を上げる。
「ねえ……それってもしかして、ぜんぶ押した状態か、浮かせた状態にするんじゃないかしら?」
「わかるのか、美智子」
「うん。ゲームとか漫画の知識なんだけどね」
「そうだね、オレも同じこと考えてた。ただ、へこんだ状態が正解なのか、それとも逆なのかは、やってみないとわかんないけど」
流はちゃちゃっとパズルを解いたが、結果はなんともはや、ハズレであった。
「あっれ~~~?」
「逆だったみたいね。さ、もうひと頑張りしてちょうだい」
「くっそ……オレって運、悪ぃかも……」
流はガックリと肩を落としてぼやいた。その様子に晶たちは笑みをこぼした。そして、最後のスイッチが沈み込んだとき、ゴゴゴ……と重たい音を立てながら地下の部屋全体が微妙に揺れ始めた。




