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フェアディの最期

「晶!」

「賢ちゃん!」


 扉の陰に隠れていたふたりが駆け寄り、ようやく再会を果たした四人は手を取り合った。美智子は賢吾に抱きつき、流は晶が怪我をしていないかと確かめた。


「どうして、流と美智子さんたちがここに? どうやって?」

「そうだぞ。美智子がここにいるとは思わなかった」

「助けに来たんだよ、未来から! 危なかったろ?」

「えっ、それってどういう意味なの? それに、あの人たちはいったい……」


 戸惑う晶の前にロドウィンが進み出てきて跪く。そして、いつもの彼からは考えられないくらいの甘い声と笑みでしゃべりはじめた。


「どうも、お嬢さん。俺は聖堂騎士のロドウィン・カインズ。このふたりの護衛として、はるばる船で大陸を渡ってここまで来たんですよ」

「え、ええと、ありがとうございます、カインズさん。吾妻 晶と申します、よろしくお願いします」

「光栄です」


 晶の手を取り、その甲に音だけのキスを落とすロドウィンを見て、演技臭さを感じた賢吾はそっと晶に耳打ちする。


「なぁ……なんだか、このロドウィンっての、胡散臭くないか? 人柄って意味でさ……」

「そんなこと言うものじゃありませんよ、賢吾さん。流と美智子さんを護衛してくれている、親切な人じゃないですか」

「ちょっとちょっと、騙されちゃだめよ! 賢ちゃんの言うことは当たってるわ。今まで一緒にいて、こんなに表と裏の顔がはっきりしてる人に会ったのって初めてだもん」


 美智子がロドウィンと晶の間に割り込みながら言う。流も「そうだそうだ」と頷いていた。


「おいこら、余計なこと言うなよ」

「ほーら、本性を見せたわよ」

「ああ、やっぱり胡散臭かったかぁ……」


 真顔の美智子の横で、自分の直感が当たっていた賢吾は納得して頷いていた。


「ちっ、せっかく戦ってやったのによお」

「それ以外の部分が色々問題ありすぎるのよ」


 ロドウィンと美智子のやり取りに賢吾が口を挟もうとしたとき、ちょんちょんと膝を突くものがあり、見下ろしてみると今までどこにいたのか、キャルレが側に立っていた。


「うおっ、びっくりした」

「ケンゴ、アキラ、僕にも紹介してもらえるかい? 話の流れから見て、おそらく、君たちの探していた恋人さんたちなんだろうけど」

「そうだな。すまない。えー、美智子、彼はキャルレさん、俺たちを助けてくれた医者なんだ」

「えっ、でも……」

「見かけは直立歩行の猫だが、俺たちと同じだ。猫人間だな」

「へ、へぇ」


 賢吾の説明はかなり雑で、すんなりと飲み込めるものではなかったが、美智子はひとまず細かいことは置いておくことにし膝を折ってキャルレと目線を合わせた。


「賢ちゃんの恩人なら私の恩人でもあるわね。ありがとうございます、キャルレさん。あ、でもこの場合恩人じゃなくて恩猫…かしら?」

「どういたしまして。気にすることはない、広義の意味では我々もまたヒトだよ、うん」


 キャルレはヒゲを撫でながら満足そうに目を細める。晶もまた、恋人である流を紹介した。流はソワソワした面持ちでしゃがみ込むと、キャルレに握手の手を差し出した。


「どうも、流でっす。手ぇ握ってもいいですか」

「構わないよ。よろしく、ナガレ」

「ひゃ〜〜、肉球だぁ!」


 キャルレの小さな手を握った流は思わず小声で叫んでいた。本当は抱きしめたかったところを、それは失礼にあたるなと握手にしたのだが、感動に心の声が漏れてしまったのだ。


「流ったら、失礼よ」

「いいよ、いいよ」


 結局、晶にたしなめられたが、キャルレは笑っていた。その間に賢吾はロドウィンに「手伝え」と言われて彼と一緒に地上への階段へ足をかけていた。


「待って、賢ちゃん。私も行くわ」


 美智子はそう言って小走りに階段へ急いだ。晶もそれに続く。


「晶も行くの? 帰り道コッチなんだけど」

「私の荷物も上にあるもの。流はどうするの?」

「オレは……」


 するとそのとき、気絶していたと思っていたフェアディがいきなり動き出し、流の脚にすがりついた。


「流っ!」

「うわっ!」


 足を取られた流はバランスを崩してうつ伏せに倒れた。手を使い、顔から石床に突っ込むのを防ぐことしかできなかった。フェアディは狂ったような笑い声を上げながら、どこに隠し持っていたのか、ダガーナイフを振り上げた。


「はははは! こうなりゃせめて、お前を道連れにしてやるぁ! 死ね、小僧!」

「流!」


 一瞬の出来事だった。

 しなるムチのような晶の回し蹴りがフェアディの側頭部を抉っていた。生木がへし折れるような音が響く。フェアディは白目を剥くと、ゆっくりと倒れ伏した。


「はーっ、はーっ……」


 晶は荒い息の下、フェアディを見下ろしていた。グッタリとした男は妙な角度に首が曲がり、普通ではつらそうな体勢であるのに身じろぎもしない。開きっぱなしの口から、ダラリと舌がだらしなく伸びていた。


「あ、晶……?」

「!」


 晶はハッと顔を上げた。フェアディの下から流が這い出てくる。キャルレが戻ってきて流に手を貸しながら、フェアディを見下ろしてポツリとつぶやいた。


「死んでいる。彼はもう、君たちに危害を加えることはないよ。永遠に」

「えっ。わ、わわっ……!」


 流が虚を突かれたような声を上げ、慌ててフェアディの体を突き飛ばし離れる。晶はその様を見て後ずさり、何も言えないまま階段を駆け上った。


「晶!」


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