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再会を喜び合う前に

 晶の消えた空間をしばらく眺め続けていた流だったが、威勢のいい掛け声とともに両手で自分の頬を叩くと三人を振り返った。


「じゃあ、欠片を合わせたら扉から勢いよく出て敵を制圧する、そんな感じでいいかな」


 相手は刃物と飛び道具を持った盗賊たちだ。だが、こちらには彼らより勝る人数と、魔術と武術のエリートである聖堂騎士がいる。その安心感が流に勇気を与えていた。


「いいんじゃね? 過去に戻って扉を開いてさえくれりゃ、あとは引っ込んでてくれていいぜ。ミチコもな」

「うん、そうする。あと言っておくけど、この高校生は私よりも戦えないから、盾にしかならないわよ」

「どーせ弱いよ、オレは!」

「じゃあまとめて引っ込んでろ。カイヤと俺だけでやるわ」


 あんなに憎らしかったサディスト騎士も今は味方だ。実力だけは折り紙つきなので頼もしさすらある。


「さて、それじゃあ行きましょう。みんな……用意はいいかしら?」


 腕と足をぐるぐる回してほぐし、美智子は全員の意思の確認をする。その確認が取れたところで、流に欠片を合わせるように手のジェスチャーで指示を出した。


「へへ、なんかそのジェスチャー、卑猥」

「これから決戦なのにふざけてたらぶん殴るよ?」


 美智子をからかいながら、欠片を重ね合わせる流。さっきまでのロマンスも戦闘への意気込みも台無しである。欠片が合わさった瞬間、強い光が四人を包み込む。それが収まると、周囲の風景は同じでも、空気が違うのがわかった。外に人の気配がする。


『私に命令しないでください』


 扉の外からする声に、流はパッと顔を輝かせてささやく。


「晶の声だ……!」


 続けてぶっきらぼうな男の声がする。


「こっちは賢ちゃんね。さ、行くわよ!」


 美智子の合図で流が扉を開く。いきなり現れた四人に、その場の全員が驚いたが、中でもフェアディが最も驚愕していた。隠れ潜み隙を狙っていたはずが、扉から飛び出してきた聖堂騎士ふたりはまるで最初から彼らがそこにいると知っていたように、弓を持っていた部下たちに襲いかかったからだ。


 ロドウィンの槍の石突がまずは男の肋骨をぶち割る勢いでみぞおちに突き刺さっていた。


「ぐっへぇぇ……」


 得物を取り落としたところにロドウィンのドロップキックが決まって階段まで吹っ飛ぶ。同時にカイヤがもうひとりの手下をロングソードで切り捨てていた。武器が短弓だったのが災いし、持っていた手を切り上げられて弓から手が離れたところを上段からバッサリだった。


「くそがっ!」

「きゃっ!」

「晶!」


 フェアディは一番近くにいた晶を人質に取った。ロングソードを逆手に取り、晶の首筋に突きつける。


「お前ら、動くな!」

「ちょっとぉ、卑怯よ!」

「戦いに卑怯もクソもあるか! 勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ!」


 しかし、晶は果敢にもロングソードを持つフェアディの右手を手刀で打ち、間髪入れずに左の肘をフェアディの顔面に入れた。


「やぁっ!」

「ぐへっ!?」

「兄貴!」


 遅れてロングソードが石床に激突する音が鳴り響く。その間にも晶は向かってきたフェアディの部下ひとりと、フェアディを交互に左右のミドルキックで攻撃し、ふたりが隣り合わせにぶつかったところで回し蹴りで両方同時に蹴り飛ばした。


「晶ぁ!」

「流、どうして」

「いいから! 賢ちゃんも晶ちゃんも下がって!」


 美智子が扉の近くで叫ぶ。賢吾はいきなり現れた鎧姿の男たちに戸惑ったが、美智子たちと一緒に扉から出てきた彼らが隠れていたフェアディの手下を攻撃したことで味方なのだと判断した。そのふたりのうちロングソードを持った男は階段を上って外へと出て行った。


「賢吾さん!」

「!」


 晶が叫ぶ。迫るロングソードを身をかがめて回避した賢吾は、続けてやってくる敵の回し蹴りを再び身をかがめて回避し、カウンターで右の回し蹴りを敵の側頭部へ。思わぬカウンターで頭から真横に吹っ飛んだフェアディの部下は、そのまま側頭部を岩の壁に強打し、頭から血を流しながらドサリと地面に倒れこんだ。


「悪ぃな、とどめを刺しときゃよかった」


 そう言ってロドウィンは賢吾が倒した男に槍を突き立てる。続いて、逃げようとする手下のひとりに槍を向け、取り回しのしにくさに舌打ちした。天井はせいぜい2.5メートル、横の空間はそれなりだが味方の地球人に当たってしまう。


「待ちやがれ! 逃げんなボケが」

「ぐほっ!?」


 ロドウィンは男に肩から体当たりして逃げ道を塞いだ。大柄な男を相手にしている間に、晶は因縁のあるフェアディと対峙していた。


「ちょこまかと……死ね、女!」

「っ……」


 晶はフェアディ相手に苦戦していた。体格がそもそも違う上に、相手はロングソードという武器を持っている。リーチの違いが如実に表れていた。今はフットワークの軽さで避けることができているが、このまま続けていてはいずれ晶はフェアディの凶刃にかかって死ぬことになる。


「晶……!」

「くっ、術じゃ捉えきれない!」


 流と美智子、猫人のキャルレは晶の戦いを見守ることしかできない。フェアディの顔に愉悦の笑みが浮かぶ。そこへ、フェアディの死角から放たれた賢吾のドロップキックが炸裂した。


「ぐはっ!?」

「おい晶、大丈夫か!?」

「は、はい……」


 劣勢状態の晶を救った賢吾だったが、一息つくにはまだ早い。再び向かってくるフェアディを相手に、賢吾と晶は身構えた。


「この、クソ共が! おとなしく従ってりゃよかったのによぉ!」

「悪人に従ういわれはありません!」


 拳を打ち合わせ首をゴキゴキ鳴らしながら凄むフェアディに、晶はキッパリとノーを突きつける。大男は唸り、それ以上は何も言わずに襲いかかってきた。フェアディの格闘術は多彩で、キックにパンチ、回し蹴りなどの組み合わせだ。速度もなかなかのものだがそれのみならず緩急をつけて繰り出されるので、誘われて踏み込むと一気に持って行かれる危うさがある。


 立ち回りもかなりのもので、二対一だというのに劣勢を感じさせない。怪我が完全に癒えていない賢吾と、スタミナの少ない晶では時間をかければかけるほど勝機が薄くなる。そこでふたりは、目配せをして役割分担をし連携攻撃に出ることにした。普段であればただただ不利である小柄な体格が、狭い室内での戦いには大きな有利だ。


 まずは賢吾がフェアディの下半身にタックルし、前かがみになりながら両足を抑え込んで動きを封じる。その背中を踏み台にして、晶がフェアディのアゴにキックボクシング仕込みの飛び膝蹴りをかました。


「ぐへっ……」


 大きく当たり、ブレインショックで一瞬フェアディの意識が飛ぶ。たたらを踏んで片膝をついたところで、賢吾の右の前蹴りが顔面に決まった。ノックアウトだ。


「……ふぅ」


 ぐったりしたフェアディを確認し、賢吾はゆっくり立ち上がった。

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