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「お! このプール見たことある!」


 荒野の彼方、渇きの谷の奥深く、宝珠の欠片に導かれた四人は聖なる泉の前にやってきていた。人工の四角い石ブロックに囲われた、歪な擂鉢状の窪みを指して流はこれを「水溜り(プール)」だと言った。


「前に一度来た時も、これがあったのね?」

「そーそー!」

「ゆーて、枯れてんじゃん……プールじゃねぇし」


 念押しする美智子に流はあっけらかんと笑う。ロドウィンもカイヤも、美智子と同じく覗き込んでは見るが懐疑的な表情だ。


「流クン、ここには水があったのね?」

「そーだよ。ここ、泉だもん」

「ここに泉があったとは……。今では考えつかないなぁ」

「それはわかったわ。でも、本当にここからあのふたりの気配を感じるの? 私には何も感じられないけどぉ」


 辺りをキョロキョロ見渡しながら美智子は言った。ここに来るまでに馬も何も見かけなかったし、現実味がない話だ。そんな中、砂の中に光る物を見つけた。


「あら、何かしらこれ……え!?」


 近寄った美智子はそれをよく見て思わず後ずさる。それは朽ち果てかけてはいるものの、明らかに人骨……しかも頭の骨であることが見て取れた。


「この分じゃあ、中も人間の骨がゴロゴロしてるかもね……」


 ロドウィンが見つけた地下への階段を覗き込み、美智子はストレートにそう言った。


「ん〜〜。晶の気配がするんだけどなぁ。ていうか、ホントに中に入るの、美智子ちゃん」

「しかし、他に目ぼしいものはなにもないよ、ナガレ」


 ソワソワしながら辺りを見回す流だが、その視界には晶の姿どころか他の生き物の影も形もない。


「そりゃ、ここまで来たんだから入らなきゃ。それともこの場で回れ右して引き返して、どこか別の場所に行くのかしら?」


 美智子は鼻を鳴らして言った。


「そもそも、私たちをここに連れてきたのは流クン、あなたでしょう」

「わ、わかったよ……。確かに他に行くとこないし、晶たちだって中にいるかもしれないしさ。行くよ。……カイヤ、先に行って」

「もちろんだとも」


 カイヤは魔術で炎を呼び起こして明かりにした。


「本当に便利よねー、魔術って」


 美智子は異世界の文明に改めて感心していた。ここには電化製品や通信機器はなくても、別の技術が発達している。


「私が先に立つ、後ろはあなたに任せるよ」

「へいへい」


 槍を担ぎ直すロドウィンを見てカイヤは頷くと先頭に立ち、階段をゆっくり下っていく。恐る恐るそれに続く流と、その肩を突いて促す美智子。階段の終わりにはちょっとしたスペースがあり、やはり人骨が転がっていた。


「物騒だなぁ、もう!」

「本当にここに居るの? あるのは骨だけよ。骨折り損のくたびれ儲けにならないといいけどね」


 流と美智子は薄気味悪そうにつぶやいた。

 その間にも、ロドウィンは地面にしゃがみ込んで骨を調べていた。ひとつは剣のような刃のある武器によって傷つけられた成人男性の骨、もうひとつは猫人のものと思わしき骨で、こちらにも矢によるものだと言える傷が残っていた。


「ふーん」

「何? 何かわかったの?」

「べつに」


 四人は扉を調べたが、紋章が彫られているだけで特に変わったところはない。流は扉の向こう側に呼びかけた。


「晶! 晶、いるのか?」


 しかし、返事はない。


「この扉の先にいる可能性はあるけど、まずはどうにかしてこの扉を開けなきゃいけないわね」

「あの半欠けの宝珠を取り出してみてはどうかな」

「ああ、アレ。いいけど」


 カイヤに言われて流が欠片を取り出すと、それは激しく明滅を繰り返した。


「めっちゃ光ってる!」

「もしかしたらそれをこの扉にかざすとか?」


 扉の前に立ち、腕組みをして考えていた美智子は、「RPGのお約束よねー」と思いながらそう提案した。


「よっしゃ、試してみようぜ」


 流が欠片を扉にかざすと、重そうな石扉がゴゴゴと地響きを立てながら開いていった。中はまたしても奥に扉のある部屋で、そこにはひとつ、床に人骨が転がっているだけの寂しい部屋だった。


「あれっ、何もないのか?」

「妙ねえ。ここには人骨がこの一体分だけ。しかも争った形跡とかは無くて、何だか力尽きてそのままここで餓死しちゃったみたいねえ。ねえ、あなたはどう思う?」


 人骨が壁にもたれかかっている様子などから、美智子は素人の目線でそう分析しながらロドウィンに振った。


「そうだなぁ。確かに、こっちには争いの痕はなさそうだ」

「さっきの骨には、矢傷や刃物による跡なんかがあったからね」

「妙に小柄だし、骨格からすると女の子かしら?」

「……ああ。これは小柄な女性、もしくは少女だな。おっと、おいおい、こんなのが落ちてたぜ」


 ロドウィンが拾い上げたのは、流の持つ物とまったく同じ……いや、合わせればピタリとあうであろう半欠けの宝珠だった。


「なっ! なんで、それが!」


 流が首から下げていた欠片がひときわ強く輝くと、それに呼応するようにロドウィンの手の中で煌めいた。美智子もカイヤも、驚きに目を見開く。


 流は床に崩れた人骨に取りつき、必死で抱き起こす。その首には、指輪を通した細い鎖のペンダントがかけられていた。


「……晶。やっぱり、晶、なのか……」

「えっ、ちょっと、それってまさか……え? あれ!? え、あ……えっ、じゃ、じゃあ……え、も、もしかしてこの骨って……!?」


 美智子は悲鳴を上げた。

 信じたくない……だが、目の前には確かな証拠がある。


「嫌だ……嫌だ、こんなのは!」


 そのとき、宝珠が強く光り、何もない空中に晶の姿が映し出された。それは別れた時の晶の姿にそっくりだったが、向こう側の壁が透けて見えるくらい、半透明だった……。

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