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聖堂騎士 is 何?

「ここで、捌くの……」

「苦手なら見ないほうがいい。すぐに済むから」


 青くなる美智子と流にそう言うと、カイヤは手早く作業を進めていった。


 まずは毛皮を魔術で軽く焼き、ダニや小さな虫を殺す。次に魔術で浄めた刃を、内臓を傷つけないように気をつけながら入れていき、喉下から肛門まで裂いて中身を取り出す。内臓を地面に埋めておしまいだ。


「お待たせしたね。もういいよ」


 しかし、いざ村まで移動しようというとき、流が慌ててカイヤを止めた。


「あ、ちょっと待って。美智子ちゃん、オレをかばって足をやっちゃってるんだよね。なんか応急手当しないと! カイヤさん、できる?」

「いつもなら術で治すんだが……君たちには効かないかもしれないな」

「そうなの!? でも、やるだけやってみてよ」

「わかった。【鎮痛】【鎮静】【固定】……どうだろうか」


 カイヤが美智子の足に触れつつ呟く。しかし、美智子の痛みは引いていかない。言われて足を動かし確かめてみるも、特に変わりはなかった。


「ダメみたい。……せっかく使ってもらったのに、ごめんなさい」

「いや、構わないさ。どれ、ちょうどいい枝を探してくるとしよう。布はあるかな?」

「オレのハンカチでよければ」

「上出来だ」


 カイヤはその辺の木から枝を折り取ると、美智子の足に添え、ハンカチできつく縛った。


「ナガレに肩を借りるといい。荷物は私が持とう」

「どうもありがとう。ここからどのくらい歩くのかしら」

「そうだな。移動しながら話そうか」


 美智子のキャリーケースを巨大猪の上に乗せながら、カイヤはニッと笑った。


「今、我々がいる場所は”藍の草原”の脇にある森だ。ここから少し……そうだな、三時間ほど歩けば村に出るよ」

「三時間!? マジか〜〜〜」


 流が空を仰いでげんなりした声を出した。


「ミチコは足を怪我しているから、さらにかかるだろうね。でも、今ならまだ、日が暮れきる前に村に帰れる。頑張って歩いてくれ」

「うえ〜〜」


 流に肩を貸して貰って歩き始めた美智子は、ひとまず現状を把握をするべくカイヤに質問することにした。


 王都まではどれ位の距離があるのか? さっき大聖堂と言っていたが、この世界にもイタリアみたいな文化があるのか? カイヤに聞きたいことは山ほどある。


「ねぇ、カイヤさん。村まで三時間かかるって言うけど、ここらへんは王都からどのくらい離れてるの? それに、大聖堂に連れて行ってくれるって言ったけど、それはどんな施設なの?」

「そうだなぁ。何から話すべきか……」


 カイヤは嫌な顔ひとつせず、徒歩での長い移動時間を使い、色んなことを教えてくれた。


 まずわかったのは、ここがアウストラル王国と呼ばれる島国であること。その中でも今三人がいるのは、島のおよそ左半分を占める大きな森、「西部大森林」という名の自治区だということだ。


 この「西部大森林」は魔物の巣窟で、人々は小さな集落に固まるようにして生活している。そして、カイヤのような聖堂騎士と呼ばれる戦闘集団が見回りをすることで、魔物の害を防いでいるらしい。


「ってかさ、聖堂騎士って結局、何?」


 カイヤの話を聞いていた流が聞く。


「世界のすべてを記し、人々を導く聖典に仕える戦士さ。聖典は聖堂に納められている、だからその聖堂を守護する者が必要だ。その戦士たちの内、“動”の白術(はくじゅつ)、“静”の黒術(こくじゅつ)、ふたつを操りかつ武力も兼ね備えた者を聖堂騎士と呼び、すべての人々に奉仕する彼らを、人々もまた支える。ま、そういうもの、かな」

「へぇ。つまりカイヤさんって、そのエリートのひとりなのね」

「そんな、私はぜんぜん、大したことないさ」


 照れたようにカイヤは言うが、巨大猪を簡単に倒した腕前といい、今もその猪を担いで歩き続けていることといい、彼が剣と魔法のエキスパートであることは間違いない。


 それに、聖堂というのは宗教施設のようなもののようだ。そこを守る騎士なのだから、ゲームや漫画で言えば聖騎士(パラディン)ということ。道理で責任感があって親切な性格をしているわけだ、と美智子は思った。


 大学では漫画研究会――という名のゆるいサークルに入っていた美智子は、わりとすんなりカイヤの話を理解できていた。


「なぁ、カイヤ〜。カイヤが聖堂を守ってるってことはさ、大聖堂ってここから近いの?」

「いや、ちょっと遠いかな」

「えっ、なんで!」

「今の私は、騎士団を離れたフリーライダーでね。小さな聖堂を拠点に、周囲の地域を見回って魔物を退治したり、村の困りごとを解決したりしているんだ。特に目的も期間もなく、ゆるくやっているよ」

「ってことは、仕事ヒマなの? 今日だけじゃなくて?」

「ちょっと、流クン!」


 あわよくば「道案内だけでなくこれから先ずっとついてきてくれないかな~」という都合のいい考えが丸わかりの流の態度に、美智子は思わず声を上げていた。


「だって~。美智子ちゃんもそう思ってるクセに」

「思ってないわよ。貴方ね、いつもそんな感じなの? この先、絶対社会人生活で苦労するわよ!!」


 そこから美智子の説教が始まった。

 「さっきのだらしない態度は何なの」とか「失言が多すぎるわよ」だの、とにかくカイヤに対する流の態度に対して物申さずにはいられなかったのだ。


「そんなダメ出ししなくてもよくない!? 今やることかよ~」

「今やらなくていつやるのよ! 今に決まってるでしょ!」

「こえ~~。おばちゃん先生みたい……」

「誰がおばちゃんよ! そもそも貴方、私とそんなに年齢変わらないでしょ! 私が二十二で貴方が十七でしょ?」

「え……五歳も違うじゃん……」

「なに!?」

「ごめんなさ~~い」

「謝るぐらいだったら最初からそういうことを言わなければいいじゃないのよ、まったく……」


 これ以上は何を言っても無駄だろうと、説教を切り上げた美智子に、カイヤが笑いながら言う。


「なんだか不思議な力関係なんだな。ふたりは友人なのかい」

「友人、と言えば、友人なのかも。ちょっとした縁で知り合って、どっちかといえば彼のガールフレンドと、そのイトコちゃんと仲がいいの」

「オレはオマケ!」

「そーね」


 説教されたのが効いていないのか、流はヘラヘラ笑っている。


「もうすぐ村だ。もうひと頑張りしてくれ」

「よっしゃ〜〜!」

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