新しい仲間
「ンだコレ…………ただの、玩具じゃねぇの?」
「だとしてもさ、フツーじゃないのくらい、わかるだろ」
とっくにバッテリー切れで動かなくなってしまったスマートフォンだったが、カインズの興味を引くことはできたようだ。さっきまで馬鹿にした笑いを浮かべていた聖堂騎士は、今はムッと黙り込んで流たちの様子を窺っている。
「あー、私のはまだバッテリーが少し残ってるわ。じゃあ音楽でも少し流してみましょうか」
カイヤから解放された美智子はそんなロドウィンを見ながら、自分のスマートフォンを取り出した。地球のテクノロジーをこの世界の人間―主にカインズ見せるべく、美智子は音楽を再生する。
大音量で流れる聞いたことのない電子音にカインズもカイヤも、驚き思わず身構えた。
「な、なんだ!? おい、止めろソレ!」
「聞いたことのない音色だ……」
「ね、こんなもの、こっちの世界にないでしょ? つまりこういうものを持っている私もこの男も、同じ世界からこっちの世界に来た……これで信じてもらえるかしらねえ、そろそろ?」
音楽を止めた美智子はカインズにそう問いかける。
「クソ……なんかの攻撃魔術かと思ったぜ。はいはい、わかったわかった! 認めりゃいいんだろ、認めりゃ!」
カインズはヤケクソ気味にそう叫ぶと、カイヤに向かって言った。
「オタクはなんでこんなバカ……じゃなかった、おとぎ話なんか信じられたワケ? ふつう疑うだろ」
美智子の顔色を窺い、言い直すカインズ。
「そうだな……。私はマレビトに会ったことがあるからかな。森の中で彼らを見つけた時、その不思議な服装や持ち物を見てピンときたんだ」
「そうよね。カイヤさんは最初から、私たちのこと、異世界から来たって気づいてたものね」
「へぇ。なるほどだな」
カインズはあまり興味のなさそうな相槌を打った。その彼の目の前に、流が膝をついて言う。
「オレと美智子ちゃんはさ、はぐれた恋人を探してるんだ。この欠片を拾った場所にきっとふたりはいるはずなんだ、オレにはわかる。だから、そこに行って帰り道を探したい。そこにはきっと、晶がいるからさ」
「アキラ?」
「そ。オレのカノジョ。ついてきてもいーけど、この欠片はたぶん返してやれないぜ? オレたちが帰るために必要だと思うんだ」
「…………あっそ」
カインズはフイと横を向いた。流は嘆息して美智子たちを振り返る。
「それで? 本当にどうすんの、コイツ」
「じゃあカイヤさんに決めてもらおうか。私は反対だけどね。何されるかわかんないし」
「いや、私に決める権限はないよ。ナガレが決めるべきだ」
「は? オレ?」
流はびっくりして思わず自分を指差していた。美智子も顔をしかめた。
「おい、俺はまだついていくなんて言ってないぜ!」
「ロドウィン・カインズ、彼らには術がまったく通じないんだ。攻撃的な術の効果を受けない代わり、回復の術も効果がない。ナガレの体にはまだ、君がつけた傷が残っている」
「……は?」
「本当だ。後で見せてもらうがいい。彼らを見たまえ、魔物に襲われたとして、戦えると思うかい? 火起こしも飲み水も魔術に頼れない、身を守る力もない。こんな彼らを放っておけるのか。私にはできない。もし、私が彼らを見つけず、ナガレとミチコのふたりだけで旅を続けていたらと思うと少し恐ろしいよ」
「本当よ。ライターとか、マッチとかって火を起こす道具とかあればよかったんだけど、私はタバコ吸わないしねぇ。でも、飲み水は無理。そういう施設で飲み水を作ってるから……個人でできることは限界があるのよ。だから魔術が使えるのってうらやましい」
「マジかよ……」
カインズはうめいた。そして、そのまま不貞腐れたように言う。
「ケッ、しゃあねぇな。負けちまったし、言うこと聞いてやるよ」
「えっ、マジで?」
「ああ。野良とはいえ、宝珠の行方も気になるしな」
「本当かしら。流クンはそれでいいの? 一番殴られたり蹴られたりしたのはあなたでしょ?」
「ちゃんと言うこと聞いてくれるなら、まぁ……。頼りにはなりそう、だし」
「そう。ならお願いしましょうか。戦力は多いほうが安心できるもの」
美智子のこの一言で、正式に銀髪の聖堂騎士の同行が決まった。
「それより、そろそろコレほどけよ。体が痛くてしょうがねぇ」
「じゃあ流クン、ほどいてあげてよね」
「ええっ? オレなの?」
指名された流は嫌々ながらロープをほどき、カイヤもそれを手伝う。立ち上がったロドウィン・カインズはカイヤに向き直り、握手のためだろうか右手を差し出した。
「改めて、俺の名はロドウィン・カインズ。得意なのは槍と白術だが、他もひと通り使える。銀騎士だ。よろしくな、ショート」
「カイヤと呼んでくれ、ロドウィン。私はカイヤ・ショート、君と同じく槍を得意とする者だ。魔術範囲はやや黒術寄りだな。元・第四小隊で今はフリーライダーだがヤーシャ村を拠点にしている平騎士だ」
「へぇ。まー、短い付き合いにはなるが、よろしくなカイヤ。んで、そっちはマレビトのナガレとミチコだな。言っとくが、マレビトは俺たち聖堂騎士が守るべき対象じゃねーから、舐めたクチきいてっとマジ殺すぞ?」
ロドウィンは取り返した槍を担いでハハハッと笑った。
「コイツ性格わりーよ」
「うん、それは流クンに完全に同意する。性格も悪いし態度も悪いし背の伸び具合も悪いし。私がこの三人の中で結婚するなら間違いなくカイヤさんだもん」
美智子は真顔で言った。
「えっ!」
「け~っ、イケメン嫌い!」
「そ、そんな、ナガレ……」
美智子の言葉に驚き、流の言葉に狼狽え、カイヤは行き場のない手を彷徨わせる。ロドウィンはニヤリと笑ってカイヤの肩を叩いた。
「だってよ。俺らに構わずヤっちまえよ」
「このエロ魔人!!」
美智子はロドウィンにビンタした。が、軽やかに避けられる。
「おいおい、仲良くしようぜぇ? そっちが俺のこと嫌ってるのとおんなじで、俺だってもうちょい色気のあるおねーちゃんのほうがいいもんよ」
「うるさいわよこのドチビ!!」
美智子はロドウィンに前蹴りを繰り出した。
「ケケケ! あったんねぇよ〜」
「くーっ! やっぱり縛ったままの方がよかった!」
美智子は拳を握りしめて叫んだのだった。




