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尋問タイム?

「ねえ、どうするこのちび犬? やっちゃう?」


 美智子は真顔でふたりに問いかける。


「突き落としちゃおっか」

「いやいやいやいや、それはちょっと。乗船名簿に載ってるのに、途中で消えたなんてありえないからな。せめて事故を演出しないと!」

「いい性格してやがんな、お前ら!」


 流の提案をカイヤが否定しつつも現実的なアイデアを出す。


(なにこのふたり……結局やる気満々じゃない)


 美智子は自分が言い出したくせにちょっと引いていた。自分が強い発言をする一方で、カイヤがブレーキ役をしてくれる、そういう役割分担だと思っていたのだが、この聖堂騎士、平静な顔をしているが内心キレていたらしい。


「とりあえず事故に見せかけるとかは置いといて、まずは見せましょうよ……それ」


 美智子は流のポケットを指差して言った。


「……やっぱ、そうなんのね」


 流は気が進まなさそうにしながらも、胸ポケットから例の半欠けになった宝珠を取り出した。それはこの前よりもさらにまばゆく光っている。


「だんだん、光が強くなってるんだ、コレ。たぶん、晶に近づいてるんだと思う」


 ゆらゆらと明滅しながら光の波を放つ宝珠に、ロドウィンもカイヤも、心を奪われたように見入っていた。


「とりあえず、この光が強くなる方向に進めばよさそうね。で、どうすんのよこのちび犬は。まさか一緒についてくるとか言い出さないわよね?」


 だが、カインズは美智子の軽口など耳に入っていないかのような、真剣な顔をして流を睨みつけた。


「なんなんだよ、ソイツは……。俺たちが守ってる宝珠にソックリじゃねぇか! なのに、なんで欠けてるんだよ」

「知るかよ! そんなのオレが聞きたいよ」

「お前、クソガキ、どこでそれを拾った? 今までどこにいた、なんの目的でそれをアウストラルから持ち出した! それは、そいつは国ひとつ興せるほどのとんでもない代物なんだぞ! お前の手には余る、今すぐそれをこっちに渡せ!」

「いや、無理だし……っていうか、オレ、王様になれんの?」

「へー、そんなにやばい代物なんだ。でも……私たちが元の世界に帰るための重要なアイテムだから、絶対に渡しちゃだめよね?」

「あ、そうだったわ」


 美智子は脳天気なことを言っている流をジトッとした目で見つつ釘を刺す。カインズは縛られ、カイヤに押さえつけられた状態でなおも暴れながら叫んだ。


「だから! それどこで手に入れたのかって聞いてんだろ!」

「うわ! こっわ! カイヤなんとかして!」

「芋虫みたいね……」


 美智子は思わず心の声を口に出していた。カイヤはカインズを押さえつつ言う。


「まあ、落ち着きたまえよ。今からその、拾った場所へ向かっているところなんだから」

「だからどこなんだよ!」

「ええと、地図で言えば……東方火山帯の上にある荒野だね。ここは少数部族が多く住んでいる、いわば未開の地だ。実際に上陸してみないとわからないが、おそらく『嘆きの谷』あたりじゃないだろうか」

「……あの荒れ地か。なら、あっても不思議じゃねぇな。あの辺りには遺跡も多く眠ってたハズ」


 カイヤの言葉に、なぜか素直におとなしくなるカインズ。かと思えば、流を睨みつける眼光はそのままだ。


「フン……野良の宝珠ならべつにそこまで肩入れしやしねぇよ。その代わり……悪用しようとしたら殺す」

「ひっ!」


 流は美智子の背中に隠れて、彼女を盾にした。もう何度目になるかわからない行動に、美智子は流を自分の前にグイッと引っ張り出しつつ怒鳴る。


「ちょっとぉ、女の私を盾にして恥ずかしくないのぉ!?」

「ううっ、だってぇ……」


 この男は簀巻きにしてかつカイヤが押さえている状態でもあの銀髪の聖堂騎士が怖いようだ。美智子はこれから先、まだカインズがつきまとってくるのではと考え、不安になった。


「ねぇ、結局この男、私たちについてくるつもりなのかしら? 任務のためとはいえ、わざわざここまで追いかけてくるような男よ? まだ仲間がいないとも限らないし、解放したら逆に私たちが一網打尽にされるとかそういう可能性もあるんじゃないの?」


 こうして話題は最初に立ち返る。


「う〜ん。否定できない、かな」

「やべー、ぜんっぜん考えてなかった……」

「もう、頼りにならないんだから」


 カイヤはグレージュの髪を揺らしながら小さく首を横に振り、流は大口を開けてマヌケ面を晒している。美智子は呆れて嘆息した。ロドウィン・カインズはそんな彼女を喧嘩腰に見上げた。


「あン? なんか文句あんのか。つーかべつに任務じゃねぇ。俺は休暇中だ」

「文句なんてたらたらよぉ。だって猫被って人柄が良さそうに見せてて本性はかなり切れ……あ、性格の方の切れキャラだし、一度牙を剝いたらとことん暴走するみたいだし、口だってすごく悪いし、トラブルメーカーって感じがして不安で仕方がないのよねえ」


 でも、と美智子は続ける。


「いきなり暴れない、むやみに切れない、私たちが元の世界に帰れるように協力する、って言いうんだったらまあ……一応ついてきてもいいけどぉ」

「……あ? お前ら、マレビトってやつか?」

「ええ、まあね」


 カインズはいきなり笑い出した。手が自由だったなら、おそらく美智子を指差して腹を抱えて笑っていただろう。


「ははは! あっはは! マレビト? 異世界? そんなおとぎ話に騙されるもんかよ、そんなクッセェ演技しても無駄なんだよ!」

「……あんた、なに大爆笑してんのよ!!」


 美智子のサッカーボールキックがカインズの脇腹に決まった。


「おげぇ! げっほ!ごっほ! なにしやがるクソ女ぁ!」

「や、やめるんだミチコ!」


 カイヤが美智子を羽交い締めにして距離を取る。


「ちょっとお、離しなさいよぉ! こーなったら私のスマホを見せて証明してやるんだからあ、この世界よりも凄く文明が進んだ世界から来たって言ってやるんだからあ!」


 美智子は力の限り暴れるが、カイヤの上腕が美智子の身動きを許さない。


「わかってる、わかってるよミチコ。君は間違ってない。でも今はちょっと落ちつこう」

「頭おかしいんじゃねーの!」


 カインズが吠える。


「ちょっと流クン、貴方もこのわからず屋のチビに何とか言ってやってよ! 私と一緒の世界から来たんだからあ!」

「えっ!? え、えーと。オレらが異世界から来たっていうのはホントだぜ。しかも、オレはこの世界に来るの二回目だし。証拠は色々あるけど、やっぱわかりやすいのはコレかな」


 流は服のポケットからスマートフォンを取り出すと、カインズの目の前に突き出した。

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