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不満爆発!

 腹ごしらえも済み、やるべきことが決まった三人だったがカイヤがまずやってきたのは怪我や病気を診てもらう施術院と呼ばれる場所だった。


 要は外科と内科が一緒くたになった病院と言ったところだが、雰囲気は漢方薬の店に近い。療術と呼ばれる回復の魔術だけでなく、患者に合わせた治療を施してくれるのだそうだ。


「ミチコが歩き回るのは足に良くないからね。私が大聖堂で色々と手配してくるから、その間に足を診てもらっておいで。ナガレはミチコの付き添いだ。今度こそ絶対にひとりになるんじゃないぞ」

「わかった、美智子ちゃんはオレが守るよ」

「流クンのことちゃんと見張っておくわ」

「はは。じゃあ、行ってくるよ」

「ちぇっ」


 診察され、足首に薬を塗ってもらう美智子。しかし、痛み止めの飲み薬のあまりの不味さにのたうち回ることになった。


「うぐぅえ!! これってバリウムみたいなもんなのかしら? ちょーまじぃ!! まっじぃいいいい!!」


 美智子の中で、旅行先でセンブリ茶を飲んだときのトラウマがよみがえった。


「あっはははは! 美智子ちゃんすっげー顔! はっひゃっひゃっひゃ!」

「笑ってんじゃないわよ!」


 美智子はその顔に思わず水差しの中身をバッシャアアンとぶつけていた。


「つべてっ!? あにすんだよ!」

「こっちは怪我人なんだから少しは労わりなさいよね。この無神経男!」

「え、ご、ごめんて……」


 美智子の剣幕にたじたじとなる流。謝るもののその口調には誠実さが足りない。その無神経さに美智子堪忍袋の緒もそろそろが切れそうだ。


「なんか、謝っとけば良いやみたいな感じじゃない? 大体、カイヤさんに対して礼儀もないし……。そもそも大事なものをこっそり持って帰ってくるし、それどころか割ってるし! そんなに長い付き合いでもないのに遠慮のカケラもなくて、貴方にはうんざりさせられることが多いのよ!!」

「んなこと言われても……。あの欠片持って帰る羽目になったのはオレのせいじゃねーし。美智子ちゃん巻き込んだのも悪かったけど……」


 流はぐっと、拳を握る。


「こんなわけわかんねー状況の中で、オレだっていっしょーけんめーやってんだよ!」


 流と美智子はしばらくの間、無言で睨み合った。


 もはや限界だったのだ。知り合いとはいえほぼ接点のない年頃の男女が、見知らぬ世界に飛ばされ恋人とは引き離され、不安を感じないはずがない。ここにきて互いに溜め込んでいたものが爆発してしまったのは、仕方がないことと言える。


 先に視線を逸したのは流だった。美智子はため息をついて言う。


「はぁ……もう良いわ。とにかく無神経な言動は控えてよね。で、これから先はまずこの街をすぐに出て、残りのふたりと再会して、一緒に地球に帰る手立てを見つける。その欠片がキーアイテムってことは、私たちが死ぬわけにはいかないんだからね!!」

「……かってる」


 施術院で念入りなテーピングと湿布をしてもらったおかげで美智子の足はだいぶマシになったが、その後の空気は最悪だった。無言のまま表のベンチに座って待っていると、いいタイミングでカイヤが帰ってきた。


「あ、お帰りカイヤさん」

「待たせてすまないね、支度ができた……と、言いたいところだけど、どうしたんだい?」

「うん、ちょっと」

「なんでもねぇよ」

「……とにかく、急いで街を出よう。馬車に乗って、王都まで乗り継がなくては」


 カイヤは無理に聞き出そうとせず、施術院での支払いを済ませ、ふたりを乗合馬車の駅へと案内した。しかし、石畳の道の向こう側に、槍を携えた鎧姿の騎士たちが、四、五人たむろしているのを見つけてカイヤは足を止めた。


「……待った、少し、様子を見よう」


 美智子はその騎士たちの中に、あの銀髪の聖堂騎士、ロドウィン・カインズの姿を見つけた。


「ちょ、ちょっとあれってあのチビじゃないの!?」


 騎士団の人間だからここにいてもおかしくはないのだが、何でよりにもよってこのタイミングであそこにあのチビがいるのだ。美智子は額に手を当て、溜め息を吐きながら頭を横に振った。三人が息を潜めて見ていると、彼らの会話が聞こえてきた。


「俺はもう行く。悪ぃけど頼むぜ」

「任せとけって」


 思わせぶりなセリフを残して、カインズはその場を去っていった。鎧姿の武装した聖堂騎士たち四人は乗合馬車の駅に立って、何かを、もしくは誰かを待っているようだ。


「これは……一旦、引こう」

「退くのはいいけど、結局あの連中があそこにいるままだったら、いつまでたっても街を出られないと思うわ。どこか抜け道みたいなのってないの? 裏口とか、何かそのほら……地下道とか!」


 美智子の言葉にカイヤは苦々しげに答える。


「ここ、ロサには二つの出入り口がある。ただ……おそらくは、そこも見張られているだろう。なにか作戦が、必要だ」


 ひとまず、カイヤは昨日とは別の場所へとふたりを案内したのだった。

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