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目的地は決まった

「内緒話は済んだのかな、奥さん」

「ええ。トムさんこそ、お友達はもういいんですか?」

「友達ってわけじゃない。……ここのコイツらもな」


 友達ではない、と言われたのに、カイヤはにこにこしている。エトワールも気にしていない様子で「あらあら」と笑う。


(うーん、何だか複雑な事情がありそうだけどここは黙ってよーっと)


 美智子は我関せずでカップに口をつけた。赤毛の男はムスッとしたままカイヤに向かって言う。


「で? なんで今さら俺に会いに来たんだ?」

「実は少しトラブルに巻き込まれてね。ジェレミアに話を聞きたかったんだ」

「……アイツはいない。で、俺に?」

「そういうことだよ」


 カイヤはトムに、美智子たちの事情を話した。しかし、エトワールの言った通り、芳しい答えは返ってこなかった。


「人探しをするつもりなら、ここに来たのは正解だ。聖堂にはあらゆる情報が集まり、それらはすべて大聖堂へと集約される。頼みに行くなら勝手にしたらいい」

「そうさせてもらおう」

「それと、この国の東半分を探すなら王都へ行くべきだ。だが、王都へ行ったからって探し人が見つかるとは限らないし、アンタらが元の世界へ帰る方法もオレは知らない。他をあたってくれ」


 トムの返事はつれなかったが、それでも有用な情報をくれた。それを元に美智子はさっそく具体的な動きを考え始める。


「地図売ってる場所ってどこかしら? 王都に行くにしても、大陸に渡るにしても、まずは地図がないと何も始まらないわ」

「簡単なものならこのロサの街でも扱ってる。そこのに聞くといい」


 トムは顎をしゃくってカイヤを指し示した。


「わかった、それも手配しよう」

「ありがとう、カイヤさん。助かるわ」

「話は決まったか? それじゃ、俺たちはここで失礼させてもらう」

「あ、待って。オレからもいい? あの銀髪チビ、なんなの? 知り合いなんだろ?」

「…………!」


 終始皮肉げな笑みを浮かべていたトムは、流の言葉に笑いをこらえ言った。


「災難だったな、アンタら。アイツはしつこいぞ」

「うげぇ〜!」

「やっぱり。あのちっこいの、またやってきそうな気がしてたのよね……」

「アイツは負けず嫌いだからな。何を隠してるのか知らないが、できればさっさと手の内を明かして謝るなりして、納得してもらえ」


 トムはそう言うが、それはできない相談だ。あの青の欠片は国宝にも匹敵する、かもしれない(・・・・・・)代物だ。流はエトワールにすんなり見せてしまったが、カイヤは「やめておいた方がいい」と何度も忠告してくれていた。あの銀髪男に見せるのは美智子も反対だ。


「ほ、他になんとかなんねぇの?」

「なら、ここを離れることだな。アイツはこの大聖堂を守る聖堂騎士だ、仕事中は動けない」

「なるほどね。それじゃあさっさとここを離れましょうよ。大きい街なら色々と情報が見つかりそうだと思ったけど、その前にあの男に見つかっちゃったら、今度こそ何されるかわからないわ」


 美智子の言葉にトムが口を挟む。


「一応言っておくが、アイツは私怨でアンタらに絡んだわけじゃないと思うぞ。あれでも聖堂騎士だからな。危険な代物を持っている人間を見つけたら、それを検めるのも仕事のうちだ」

「どうかしら」


 流から話を聞く限りでは、流に落ち度はなかった。それなのに突然ぶん殴ってまで持ち物を検めようとする人間相手に、到底話が通じるなんて思えない。美智子はそう言いたかったがあしらうだけに留めた。トムには直接関係のないことで、彼に怒りをぶつけても仕方がないのだ。


 三人は礼を言って彼ら夫婦と別れた。


「上手くいくといいですわね。よい旅路を祈っています!」

「ありがとう、トム。エトワール」

「じゃあな」

「どうもお世話になりました!」


 美智子は頭を下げ、流にも頭を下げさせる。


「ありがとうございました〜」

「本当に、気をつけてくださいね。カイヤさんならきっと、貴方がたを導いてくれるはずです」

「えっ、カイヤ、来てくれんの?」

「ん……まぁ、ここまで来たんだし、ついでと言えばついでかな。大陸にも一度行ってみたかったんだ」

「そ、それはありがたいんだけど……いいのかしら?」

「構わないよ。これからもよろしく、ナガレ、ミチコ」

「よっしゃ! よろしく、カイヤ!」

「あら、おめでとうございます!」


 流とカイヤは腕をガッと打ち合わせて笑いあった。その横ではエトワールがパチパチ拍手し、トムが呆れてため息をついていた。


(目的地は決まったわ。でも賢ちゃんや晶ちゃんの手がかりはまだない……。それも考えて行動しないとね)


 どうにかやるべきことが見えてきた美智子だったが彼女にはこの旅がそんなに簡単に終わるとはどうしても思えなかった。これは女のカンでしかないのだが、妙な胸騒ぎがするのだった。

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