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青の欠片と仰天の新事実

 しかし、この期に及んでも、流はそのポケットの中身を見せようとしない。銀髪男、ロドウィン・カインズが狙っていたものがそれなのだから、流が見せてくれないと話がまるで進まないのである。


「ちょっと。そのポケットの中身を見せないと状況が説明できないでしょうが」

「ナガレ、頼むよ。私たちは君の味方だ、どうかそれを見せてほしい」

「うう……」


 美智子が促し、カイヤが説得しようとしてもまだ、流は下を向いてぎゅうっとポケットの上から中身を握りしめている。


「ねえ、こうしている間にもさっきのイカレポンチが戻ってくるかもしれないのよ? そうなったら今度こそ私たちは終わりかもしれないわ。地球に帰れなくてもいいのかしら?」


 美智子のイライラはピークに達しようとしていた。流はそんな美智子を上目遣いで窺って、ようやく恐る恐る口を開いた。


「だって、たぶん美智子ちゃんめちゃめちゃ怒るじゃん……?」

「見せても見せなくてもどうせ怒るんだから、見せて怒られなさいよね、ほら!!」

「あっ、ちょ」


 そう言うと、美智子は流の脇腹をつついて手の力を緩めさせ、ポケットの中からお目当てのものを抜き取った。その瞬間、部屋の明かりよりも強い光があふれ出す。


「え、何これ……」


 光がおさまった後、美智子の手の中には半円の青い石があった。かつては丸かったものが真っ二つに割れたもののように見える。その青い石はゆらゆらと青い波を放っているかのような不思議な光に包まれていた。


「これってどう考えてもただものじゃないわよね。でも、どうしてあのイカレチビはこれを狙うのかしら?」


 美智子は首を傾げる。流も目だけで「わかんない」と言って首をすくめて見せた。その横で息を呑んで固まっていたカイヤが、ようやくため息と共に言葉を吐き出した。


「これは……とんでもない代物だ。もしもこれが割れていなかったら、このアウストラルの国宝そのものだと勘違いしていたに違いない」

「えっ」

「国宝ですって?」

「ああ。東の大貴族ノレッジの廟には青い宝珠が、ここロサの大聖堂には赤い宝珠が納められている。機会があったら見に行こう、本当に、この割れた石にソックリなのだからね。……私は布が取り払われてようやく、この宝珠の持つ魔力に気づいた。あの騎士はきっと、私より感覚が鋭かったんだろうな」


 うんうん、とカイヤはひとり頷いて納得している。


「ねぇ、流クン。これ、どこで拾ったわけ?」

「そ、それは……!」


 流はまたもやだんまりを貫こうとしているようだ。しかし、美智子がそれを許さない。


「答えなさいよ。答えないとビンタするわよ? フルスイングで。それも往復で」

「な、な、なんで!」

「当り前じゃない。貴方の持ってるものが原因でトラブルが起こるかもしれないのよ? いいえ、むしろすでに起こってると言っても過言じゃないわ。さあ、白状しなさい。早く!」

「うう、怒ってるのは美智子ちゃんじゃん……」


 ぼやく流を美智子は冷たく見下ろした。ついでに無事な方の足で軽く蹴っておく。


「ちょ、やめ! わ、わかった、わかったから! これ、オレが持ってたヤツ。前にこの世界から、持って帰ったんだよ……」

「えっ? 貴方もしかして、この世界に来たことあるの? だったら何でそれをもっと早く言わないのよ!?」

「だって! 気づいたのもさっきだったんだもん!」

「だもんじゃないわよだもんじゃ。え、じゃあなに? 貴方はここでドロボーしてたってこと? それって立派な犯罪じゃないのよ!!」


 フルスイングの往復ビンタが流の頬に決まる。そしてついでとばかりに三発目も派手な音を立てて炸裂した。


「いって~~~!! しゃあねーじゃん、すっかり忘れてたんだよ!」

「まったくもう!」


 頬を押さえて床をゴロゴロ転がる流を見て、美智子は呆れ果ててため息しか出なかった。流の持っていたこの石は、この世界のものだったのだ。しかも半分に割れている。いったい誰が割ったのか、それが問題だ。美智子は気が進まないながらも流に尋ねる。


「流クン、これ、最初から割れてたの?」

「え……。あー、えっと」

「ちょっと?」

「オレが最後に見た時は、丸かった……かな……」

「はぁ~~~~」


 美智子は最大のため息をついた。そして、カイヤに向き直る。流は信用できない。となればカイヤにこれからの行動についての指示を仰ぐしかなかった。


「ねぇ……これ、どうしよう? もう、これを何処で手に入れたとかよりも、どうやって処分するかを考えた方がいいんじゃないかしら? あのド腐れチビがまた狙ってこないうちに、どこか遠くへ捨てに行くとかは?」

「う~~ん。そう、だね……」


 カイヤは言葉を濁した。すぐには判断がつかない、そういうことだろうか。


「どうでもいいけど、美智子ちゃん、さっきからアイツの呼び方えぐくない?」

「流クンは黙ってて!」

「へ~い」


 流と美智子がくだらないやり取りをしていると、カイヤが無言で立ち上がり、真剣な表情をしてふたりの顔を交互に見た。


「ナガレ、ミチコ。大切な話がある。聞いてくれないか」

「う、うん」

「どうしたの、カイヤさん」


 カイヤは先ほどの曖昧な態度とは違う、覚悟を決めた表情だった。自然と美智子の背筋が伸びる。流もいつもの変顔をひっこめて腹に力を入れてカイヤの目を見返した。


「まず、このものすごい魔力を秘めている石……仮に『欠片』と呼ばせてもらうが、これは処分しないで持っていた方がいいと思う」

「そうなの? でも、あのカインズとかいう騎士はどうするの? アイツは絶対、しつこいタイプよ」


 美智子の言葉に流もカイヤも深く頷いた。


「確かにね。彼にこの欠片の存在がバレてなくてよかった。いや、他の聖堂騎士でも同じか……。見つかったらきっと聖堂から出してもらえないと思う」

「ええっ!?」

「じゃあ、なおさら処分しなくちゃいけないんじゃないの?」

「いや、私が思うにこの欠片、君たちの帰還に必要なんじゃないだろうか。何といってもこの魔力……それに、ナガレはこれをこの世界から持ち出したんだろう? 君たちはこの欠片に呼ばれてこちら側に来たんじゃないかと思う」


 カイヤの推測に美智子は「言われてみれば」と頷いた。


「ともかく、早くトムを探して、話を聞いたらすぐにここを離れよう。いいね?」

「わかったわ」

「それはいいけど、アイツのことは? なんか対策あんの?」

「あちらは……警戒するほかない。すまないが」

「ええ~っ、なんもできないのかよ?」

「事情を話すわけにはいかないし、あちらだって法に触れることをしているわけじゃない。こればっかりは幸運を祈るしかないんだ」


 カイヤは残念そうに首を横に振った。


「さっきは貴方がいてくれたから、あの男を退けることができたけど……その幸運がどこまで続くかよね」


 ツキが逃げないうちに行動を起こすしかないだろう。美智子は漠然とそう考えていた。


「ああ。とりあえず、ミチコは足を見せて。包帯を巻き直して寝よう」

「ありがとう、カイヤさん。お願いするわ」


 その夜はそれ以上何も起こらなかった。

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