吐露 Ⅱ
遅くなりました。
正午を過ぎて暫く経って、燦々と照りつける太陽が僅かに西に傾きつつあるなか、双葉子供園の広間(一般家庭で言うところのリビングに役割的には近い)に、二人の少女がいた。
二人揃って、テーブルに突っ伏して、ピクリとも動かない。
また、数分前まで、そこには更に数人の子どもがいたが、既に退室後だ。
「皆、元気だね………………」
「……今日は普段の3割り増しくらいね。特に女子のテンションが高かったわね」
不意に、幼い方の少女――結が呟いた。
それは、特に応答を求めたものでは無かったが、それにもう一方の少女――守美子が反応した。
退室済みの子どもたちの世話に慣れた彼女でさえ、今日は疲労でぐったりとしている。
「結は人気者ね」
「……嬉しいんだけど、何か微妙な気分だよ」
元々縁のあった芽衣に加えて、その他、特に女子の勢いが凄まじかった。
勉強を教えているうちに、いつの間にか着せ替え人形になっていた。
当人にも何が起こったのかは、分からない。
「皆んな、何やかんや年上に飢えているんだと思いますよ」
そう言って広間に入ってきたのは、以前結が訪れたときに台所にいた女性――晴乃。
守美子同様、双葉子供園で育った彼女は、現状ほぼ一人で子どもたちの世話をしている。
そんな彼女の手には、二人分のお茶と茶菓子が乗せられたお盆があった。
「出てったきり、殆ど寄り付かなかったのに、最近はどういう風の吹き回しかしら」
守美子を見つめるその瞳に浮かぶものはなにか。
結はそもそも見えなかったが、守美子にははっきりと読み取れた。
そこにあるのは、誂いと、安堵と――――。
読み取ってから、読み取ったからこそ、守美子は視線をそらす。
(情けないまでに、見透かされているわね…………)
態々結の前で聞いてくるのだから、底意地が悪い。
「………………。二人の午後の予定は何ですか?」
守美子の前での口調と結の前でのそれが入り混じったような問いかけに、反応したのは守美子だった。
結の方はどちらに向けた問かが分からなかっただけだが。
「――結、午後時間ある?」
「あるよ。何か用事?」
やることが無くて、街の散策すらするような状態なのだ。
結の時間的余裕は呆れるほどにある。
守美子は、若干迷いが残っているのか、少し間をおいてから、
「少し手伝って欲しい事があるのよ。面倒な事なんだけど、大丈夫?」
「――う、うん。大丈夫だよ……」
答えながらも、結の頭の中では面倒な事の想像がなされていた。
守美子が前もって、面倒、と評することなど、結は初めて聞いた。
(山籠りならぬ、森籠りとかかな…………。魔物の巣窟に放り込まれる…………? いやいや、幾ら守美子さんでもそれは無い。……と思いたい。後は何だろ……、魔物を効率よく倒すための実地研修?)
同じである。
結の守美子に対するイメージが酷い。
危険生物のなかで現代人に生活を指せるなんてのは、完全に鬼畜の所業だ。
「――――結? どうしたの?」
「――な、なんでもないっ」
結は頭を振って、想像を思考から追い出す。
守美子は、数瞬訝しむ素振りを向けたものの、立ち上がると、
「それじゃあ、着いてきて」
そう言って広間を、子供園の建物を出ていく。
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