エンジン
(まさか、帰らせられるとはね…………)
一人、1DKのアパートに帰ってきたグラジオラス改め守美子は、自嘲気味に考える。
ぼすり、とベッドに倒れ込む。それだけで、どれ程楽になったことか。
自嘲の念は更に深まる。
(惨めね。本当に、力がないならせめて最大のパフォーマンスを発揮できなければいけないのに……)
目先のことを一切考えられないのなら、戦闘など止めてしまえ。
守美子の持論ではある。
戦闘行為、特に長期戦において、ペース配分はとても大事だ。
一挙手一投足すべてを全力で行っていたら、すぐに死ぬ。
戦闘において、相手の行動を読むのもそうだが、その後の見通しというのは見れなくてはならないものであろう。
守美子もそれは認めざるを得ない。
逆に、今後のことばかりを考えて、全力を出し絞りすぎると、怪我などが増えて、考えていたその後の流れを実行できない、ということになり得る。
だから、今と未来のバランスが重要なのだと守美子は思う。
どちらに偏りすぎるのも良くない。
適切な時に適切なレベルで実行する。
ある意味、セージゲイズの魔力制御がそれに当たるだろう。
彼女は徹底的な効率化により、パフォーマンスを十分以上に保ちながら、消耗を限界まで削る。
今と未来を両立させているとさえ、言える。
だが、全員が全員、彼女のように出来るわけがない。
特に守美子は昔からペース配分が苦手な部類なのだ。
魔法少女になってからは多少は緩和されたが、それも精神状態によってはすぐに顔を出す。
基本的なオン・オフは可能だが(寧ろそれがないのは日常生活においてもかなり危険だろう)、調節を行えない。一切行えないわけではないが、無意識的には難しい。
今回の無茶な訓練がそれに当たる。
今日だけならまだマシかも知れないが、守美子の訓練はおよそ3日間続いている。
兎に角、アクセルをべた踏みしたあとに起こることなど、決まって燃料切れだ。
守美子はすぐに夜の静けさに落ちていって、その日は夢を見ることが無かった。
少なくとも、守美子は覚えていない。
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