巡る Ⅰ
色とりどりの光弾が一人の少女に襲いかかる。
それらは、時に軌道が折れ曲がり、急劇な加減速や透明化など、嫌らしい手法で攻め立てる。
だが、その程度では少女には届かない。
流れるように身体を動かして、光弾の尽くをやり過ごす。
彼女の両腕はまるで別の生物のように全く異なる光芒を残す。
段々と光弾の生成量、速度などが上がっていく。
それに合わせて、少女のギアも上がっていく。
周囲が光弾の光に包まれ、色鮮やかに輝く中、少女の周囲半径1m程は一色の色が在るのみ。
そこはぽつんと一点存在する異界のようで、それが揺らぐことは無い。
永遠に続くと思われた支配の拮抗は、しかし、徐々に崩れていく。
負けるのは、少女。
機械と人間との持久戦は一般的に機械に軍配が上がる。
いくら少女が超人的な能力を持っていたとしても、持続的使用に耐えうるよう設計されたものに人間が勝てる道理はない。
一度揺らぎ始めた境界はその崩壊を進めるのみ。
少女は粘ったが、それでも十分が限度であった。
光弾が彼女の肢体を捉え、消滅する。
そこに残ったのは、少女の敗北という結果だった。
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どれ程見入っていたのだろうか。
30分よりは長いだろう。けれど1時間には満たない。
その時間は定かではないが、部屋を訪れた彼女が少女の剣舞に魅了されたのは確かであった。
「凄いなぁ…………」
無意識のうちに漏れ出た感想は、一切雑念を含まない純粋で率直なもの。
それ程までに、剣舞は呟いた少女の心を揺さぶった。
疲労からか、床に倒れ込んでいる刀域の主であった少女――グラジオラスにいつかのようにタオル片手に近づくガルライディア。
「お疲れさまです。すごく綺麗だったよ」
「……ああ、またガルライディアか。良く会うわね」
汗に濡れたグラジオラスの姿がとても扇情的に思えて、思わず頬を染めるガルライディア。
「まあ、訓練室ってここだけだからね。……それで、設備次借りていい?」
誤魔化すように話を逸らす。
一応話を逸らすために用いたが、訓練したいのは本当。
「ええ、流石にこれ以上待たせられないわ。そもそも、体力的に一旦休憩がほしいし」
そう言って、グラジオラスは壁際まで少々身体を引きずるように移動する。
あれだけの光弾の対処の疲労がすぐには抜けないだけか、それとも――
ガルライディアはグラジオラスが十分離れたことを確認すると、訓練設備の設定を開始した。
前方のみからの集中攻撃。
光弾の色は一色。
軌道は直線のみ。
発射点は4箇所。
設定を終えて、開始ボタンを勢いよく押した。
すぐさま展開される光弾の発射機。その数は設定通りの4機。
それらはガルライディアを中心にして、彼女の前方180度までの域を自由に動き回る。
お世辞にも速度は速くないが。
光弾が瞬き、少女に迫る。
ガルライディアは『フライクーゲル』から魔弾を打ち放つ。
光弾の青と魔弾の紅が衝突して、双方空に散る。
光弾は魔法ではないが、魔力を纏っているために魔法などの魔力を伴う物体には当たり判定が生じるのだ。
その魔力が何処から来るのかと言うと、魔物の心臓部、通称魔石からである。
魔石は魔物の死後もある程度の期間活動を続け、魔力を生成し続ける。
それを活用したものの代表例が街を覆う結界である。
あれは、魔石の魔力で発動させている結界魔法なのだ。
妖精主導で構築した魔法陣に魔力を込めることで、魔法少女などの人の手を必要としなくなったのだ。
魔法陣の構築は、単価でさえとんでもない額になるので、結界の他にはまともに存在しないが。
ガルライディアが現在使用している訓練用のものも、魔力塊に合わせて光を与えているだけで、魔法陣などは一切ない。
魔力塊を形成する機構にも魔法陣は使われていない。
それが何かは公表されておらず、魔法少女たちの間では後ろ暗い話であろうという噂が絶えない。
閑話休題。
段々と光弾の生成数が増えていく中、ガルライディアは危なげなくこれらを迎撃していく。
平時なら確実に回転が間に合わないレベルまでになっても変わらず一切合切を撃ち落とす。
それが彼女に出来ている理由は、魔力の集中にある。
グラジオラスから教わった魔力を集中的に込めることでの部分強化法。
それをガルライディアは現在、両腕と頭、というか首から上全てに施すことで、何とか食らいついている。
だが、不慣れなことをしているのだ。
そんなものが名が続く知るわけがなく10分と経たずに被弾。そこで訓練は終わりになってしまった。
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