討伐するには
猪型の魔物がガルライディアに向けて突進する。
その様子を見てガルライディアはすぐさま横っ跳びで回避しようとする。
しかし、左足が突進に巻き込まれ、少女の身体は意図しない方向へと飛ばされる。
痛みは無い。けれどぶつかった感触だけはある。
床を転がりつつ、再度発泡。両手の拳銃から放たれた計五発の魔力弾の内の一つが魔物に当たる。
だが、魔物はまるで気にしている様子がない。それどころか、怪我らしい怪我もしていない。
「えっ?」
驚きの余りガルライディアが声を漏らす。
当然ながら、魔物は待ってくれない。
圧倒的なまでの速度で疾駆する。
猪は魔力など無くとも、時速40kmを超える。
魔力の加護によりその速度は時速100kmに昇る。
加えて、魔物の特徴として、基にした動物よりも一回り、二回り、巨大化する。
そんな状態の物体と人間がぶつかりでもしたらひとたまりもない。
さらに、その身は纏う魔力によって、より強靭になっている。
体表の魔力を押し退けられる魔力でない限り、ガルライディアの攻撃などの魔力弾は魔物に対して殆ど意味を成さない。
魔物の突進を脚に集めた魔力を押し出すことで上に回避する。そして、回避と同時に出来る限り距離を取る。
(考えろ、今の私に出来る事をっ)
ガルライディアは自身の手札を整理し始める。
・拳銃から魔力弾を放つ。(威力はある程度調節可能)
・身体から魔力を勢いよく放出し推進力にする、
魔力放出と呼ばれる技術
・魔力を一箇所に集中させることによる、防御力の向上
今のガルライディアに出来るのはこの三つのみ。
強いて付け足すのなら、直接銃などで殴ることだが、先に攻撃を喰らうことが容易に予測されるため、実質使えない。
(さっきぶつかった時に何mも吹っ飛ばされたことから考えると直撃は駄目。……となると、)
攻撃を回避して、魔物が避けようがない時に全力の魔力弾を当てる。それ以外に勝つ道はない。
ただ、これには一つ問題がある。
それはガルライディアのまだ不安定な魔力の制御では拳銃に魔力を込めることと、魔力放出を同時に行うのは困難である事だ。
回避に魔力をつかわなければ良いのだが、魔物の突進は完全には回避出来ない。掠りでもしたら、その衝撃で標準がずれる。
ずれた標準を即座に修正するほどの技術はガルライディアにはない。
要は魔力の制御を今までよりも正確に、多くの量でしなければならない。
(……でも、私なら、出来る)
アッシュは言った。ガルライディアの魔法の才能は凄いと。
命の恩人の言葉さえも、信じずに誰の言葉を信じるのか。
ガルライディアは深く息を吸い、そして、止めた。
ガルライディアの魔力が動き出す。より速く多く、けれど丁寧に。
今まで、様子を伺うように動かなかった魔物が突進を開始した。
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