大針迎撃戦 Ⅰ
サソリの大針がグラジオラスでも、ガルライディアでもなく、全く別の民間人に向けられて撃ち出される。
本来、サソリに尾の先端部の針を飛ばす機能など無いのだが、そこは魔物。
様々な生物を模した形状をしていることが大半とは言え、それとはまた別の生命体なのだ。
独自な生態、機能を持つのは何ら不思議ではない。
ベースからかけ離れることは極めて稀だが。
兎も角として、放たれた大針は高速を以て、少女らを振り切ろうと空を駆ける。
ガルライディアは即時魔弾を撃ち放つ。
若干のタメが必要な『貫通』等の技は使えない。
一切のタメも躊躇いもなく、通常の魔弾を放ったのだ。
だが、それでは間に合わない。
疾く奔る大針の横を紅が駆け抜けて、地を穿つ。
ガルライディアの顔が悲痛に歪む。
逃した。後ろから戦場を俯瞰でき、周囲への被害を抑える役回りの自身が迎撃し損なった。
咄嗟の標準が甘い。甘すぎる。
「『白亜』」
瞬間、グラジオラスの魔法とともに、針の進行方向に10cm四方ほどの障壁が展開される。
白い障壁は、軋むことすら無く大針を防ぐ。
「ガルライディア、『散弾』の準備!」
グラジオラスの体感として、サソリの大針の威力は然程でもない。
最小限のコストで防ぐことを考えると、些か障壁に魔力を使いすぎだった。
この程度なら、数と範囲の為に、威力を犠牲にした『散弾』でも過不足なく撃ち落とせる。
刹那の間にそこまで思考を巡らせたグラジオラスはガルライディアに極短い言葉を投げる。
それは、多少の齟齬は兎も角としてガルライディアに伝わったようで、
「了解!」
こちらも短い言葉での返答。すぐさま、魔力を『フライクーゲル』に、腕に、頭に集める。
サソリの針の射出に対して迎撃をより確実なものにするための魔力の配分。
魔弾を逸早く撃つために。
射出に対して軌道の把握や即時対応をするために。
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(何で最近、こうも相性悪いやつが多いのだか……)
心の内で愚痴を吐き捨て、白刃を振るうグラジオラス。
しかし、まともにダメージを蓄積出来ていない。
歯噛みしようと結果は変わらない。
グラジオラスは攻撃能力が低い。
魔力特性『堅固』は障壁魔法などに適正のある魔力特性。
その魔力は魔力自体が硬質であるといった性質もあるが、結局の所、魔法具や身体に魔力を込めて近接戦闘をする他ない。
障壁魔法での攻撃を強いて上げるのなら、魔力障壁を相手に叩きつけたりだろう。
だが、グラジオラスが魔法の同時展開を苦手としていることと、障壁を速く動かすのは高度な魔力制御が必要とされ、グラジオラスは細かな魔力制御は出来ないため、それも不可能であることで、障壁による攻撃も出来ない。
グラジオラスには魔法具『唐菖蒲』での斬撃や格闘以外に有効な攻撃など無いのだ。
甲殻に阻まれるのなら、狙うべきは関節なのだろうが、それはそれで困難である。
サソリ型の魔物、その高さは3m近い。純粋に攻撃をしづらいのだ。
加えて正面の大鋏が邪魔をする。側面に回り込もうにも、巨体に似合わぬ機敏さで対処される。
(尾を切り飛ばせれば一番いいけど……、隙きが大きすぎる。先に邪魔できないように鋏かち上げるか)
グラジオラスはサソリの尾の振り下ろしを、態と『唐菖蒲』を交差させる形で受け止めて、
「ハアッ」
力の限り、上に跳ね上げる。ガキリと硬質な音が響き、サソリの体勢が大きく後ろに反れる。
しかし、数メートルの巨体である。
グラジオラスの筋力では、一撃入れるだけの隙きしか作れない。
舌打ちを堪えたグラジオラスのすぐ横を駆けるは紅雷。
ガルライディアの魔弾がサソリの体勢を更に崩す。
魔弾を視界に捉えた瞬間、グラジオラスは右手の小太刀に全開で魔力を叩き込む。
白刃が純白に輝き、尚も勢いは収まらず、白い光芒を軌道に残す。
「シャアアァァーー!!」
鋏の関節に小太刀を叩きつけて、機動を潰す。
小太刀は関節の間に深々と入り込み、そう簡単には抜けないだろう。
即時、手を放して、サソリの上を駆け上がる。
狙いは勿論、尾の切断もしくは破壊。兎に角、針の射出を阻止できれば勝ちだ。
しかし、振るった刃はサソリが暴れたために狙いから逸れて、甲殻を強かに打ち付ける。
「――――――!!」
怒りを覚えたような絶叫、それに付随するように、尾が天高く掲げられた。
ガルライディアもグラジオラスも、サソリの次の行動を予期して、反射的に動く。
ガルライディアは即座に『散弾』で尾を打ち払う。狙いを付けなくて良いという意味では最も優秀かもしれない。
グラジオラスは『散弾』に一拍遅れて、残った左の刃を、腕を、引き絞る。
「ハアァッ!」
全力の一突き。魔力放出を動作に合わせることで更に加速。
ビキッ、と固く乾いた音が辺りに響き、遂に甲殻を突破して、尾の中程に突き刺さる。
しかし、サソリは痛烈な攻撃を受けながらも、大針を大空に向けて、連射した。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
自分で描いておきながら、サソリ怖っ。




