戦う理由
「戦う理由といっても、結とそう変わらないわ。芽衣たち家族を守りたいから、私の、私達の家を守りたいから、言ってしまえばそれだけ。寧ろ友人とかは二の次だから、結のほうが立派ね」
最後は少しだけ自嘲するように言ってのけるが、すべて事実なのだろう。
嘲りはするものの、彼女にとって家族がすべてで、それを守れることに喜びを覚えるのか、誇らしげに微笑を称えている。
「立派じゃ無いと思うよ? 私も結局は少ない大切な人を失いたくないからだし、人数だけ見ると守美子さんの方が守る人多いくらいだし」
実際、双葉子供園にいる人数は15人ほど。結が失いたくないと思う人の二倍に昇る。
どこまでいっても、自分たちは英雄のように万人を救うことなど出来ないのだと。そんな力は持ち合わせていない。どうしても、守る対象を絞らざるを得ない。
言外にそう含まれたその言葉には、頷くしか無かった。
「人数は重要じゃないわ。その人達を守りきれるか、それこそが大事なのよ。……………………その点、私は駄目ね」
ボソリと呟かれた最後の一文は結の耳には届かなかった。
守美子としても、口に出したのは無意識なのだろう。一度、はっとしたように目を見開いた。
「その、そう思うようになった理由って、……あるんですか?」
結の「大切な人達をもう二度と失いたくない」という思いの起源には、綾生の喪失が大きく関わっている。あのような思いをまたすると思うと、総身が震え上がる。
結の交友関係が狭いのは、喪失の確率を少しでも狭めようと思う、自己防衛もあるのかもしれない。
大半の理由は性格の問題だが。
「そうね……、母との約束、かしら?」
そう答える守美子の目を見て、結は母の現状を悟った。
守美子は懐かしき過去に思いを馳せて、そのまま数分間部屋を静寂が満たした。
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「遅くなっちゃったわね。送るわ」
日が沈みかけた頃、漸く結は帰路につくことのなった。
「ごめんなさい、煩かったでしょう。最後の方は遊び相手になって貰ったし……」
「ううん、前にも言ったけど、ああいう賑やかなの結構好きだから」
帰路につくとは言え、バスに乗ればそう時間は掛からない。ただ、バス停までの距離は中々あり、なおかつ街の端に位置するためか、街灯のたぐいも少ない。お世辞にも、小学生を一人歩かせるべきとは言えないないだろう。
「そう? そういえば理由聞いてなかったわね」
「何か人がいっぱいいると温かい、から?」
「なぜ疑問形……」
結の表現に使われた「温かい」は守美子としてもわかるように思う。あの空間に慣れて、結が言うほどの印象を覚えることはないが。
帰り道(守美子は加集家まで送る気らしい)に今日の話などに花を咲かせる。
はたから見れば、仲のいい姉妹のようにも見えただろう。
だが、そんな和やかな時間がそう長続きするわけがない。
鳴り響くは、少々ご無沙汰のアラート。
「――ッ、場所は……」
「街の西側の森で、三体、……ランクはBが2のCが1」
「そうね、すぐに向かいま――」
街の西側の森とは言え、魔物がいる地点は街に程近い。寧ろすぐに街に入ってしまいそうな位置だ。
すぐさま飛び出そうとする二人のマギホンが再度電子音を撒き散らす。
一度脚を止めて確認すると、今度の魔物は街の南側、しかも街にすでに侵入している。
「こんな時にっ……」
守美子がつい悪態を吐く。双葉子供園は街の北側に位置している。結と守美子は西側の方が近い。けれど、危険度は南側。
「結は西側をお願い、私は――」
仕方なく戦力を分散させようとする守美子の声はまたもや遮られた。今度は明からの通信。
『守美子、私と鳴音は今、西側に当たっているわ。ごめんなさい、動きが速くてっ。二人揃って手が離せないのっ。悪いけど、南側に急行して!』
「――チッ、了解!」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる守美子。通話越しに内容を把握した結とともに走り出す。
「『変身』!」
「『その背を追え』っ」
走りながら、魔法少女に変身する。それぞれの周囲を紅と純白が覆い尽くす。そのまま二人は、跳ね上がった身体能力で近くの民家の屋根を伝って、街の正反対の位置を目指して、疾走する。
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