家族の形 Ⅰ
『も、もしもし。聞こえますか、守美子さん?』
芽衣が迷子になって、結と謡に助けられたその日の夜。守美子のマギホンに結から電話がかかってきた。
普段は連絡などはお互いにメールで済ませている為、もの珍しいことに目を見開いた守美子だったが、すぐにマギホンを手に取り、通話ボタンを押した。
「ええ、何かしら?」
『ちょっと聞きたいことがあって……』
少々言いにくそうにしている結に、首を傾げる。
何だろうか? もしやあの時言ってなかっただけで芽衣が迷惑を掛けたのだろうか?
そんな考えが浮かび、首を振る守美子。
それを伝えたいだけなら、メールでいいはずなのだから。
(そもそも、迷子の相手をしてもらった時点で迷惑は相応にかかっているだろうし)
人にかける迷惑は少なければ少ないほど良いに決まっているが、守美子から見ても結は世話焼きというか、なんだかんだ人のことを放っておけないような人間なので、後で謡の分も一緒にお礼を渡すだけに止めようと考える。向こうが気にしていないと言うならばこちらが態々蒸し返すこともないだろうと。
因みにだが、結としてはいなくなった(芽衣は本人がいなくなったが)大切な人を探し回ることを責められないので、気にしていないというより、寧ろ気にしないでくださいと言いたくなるのだ。
自分自身も行方不明になった綾生を夜遅くまで探し回って香織に連れ戻された過去があるので。
『――守美子さん?』
思考を巡らせ、無言になっていた守美子を訝しんだ結の呼びかけで、守美子は現実へと引き戻された。
「ごめんなさい。……それで聞きたいことって?」
聞いてから数秒程間が空いた。それだけ、聞き辛いことなのだ。そもそも、聞いていいものなのかと結は今更ながら何度目かも分からない疑問を覚えた。
『……………………え、えっとね、守美子さんと芽衣ちゃんって、…………本当の姉妹?』
呼吸が止まった。
側から聞けばなんて事のないような質問、率直な疑問。けれども、少なくとも守美子からしてみれば、秘密とまではいかないが、公害はしていないことを聞かれたのだ。
「…………どうして、そんな疑問を……?」
声が震える。どこで知ったのか、それは考えるまでもない。芽衣の世話をしてもらった時に持ち物にかいてある名前を見たのだろう。知られるのは然程問題ではない。守美子本人としては、だが。
『芽衣ちゃんの名字が小岩、じゃなかったからかな。他にも幾つか理由、とまでは言えないけど、違和感? みたいなのに思い至って……』
違和感といわれて、守美子は少しばかりドキリとした。
母がいない自分が時折、香織と結とが一緒にいる時に視線を向けてしまっていたことがばれたのでは無いかと。
羨ましいのだろうと、守美子は考えている。
自身には肉親がいない。今更それをどうこう言うつもりはない。赤子の頃に捨てられたと聞いているのだ。肉親に思う所など何一つ無い。
それに加えて、自分にも母がいたのだ。
けれど、彼女は――
守美子は思考を振り払うように、首を振る。今重要なのはそこではない。
「……結、明日時間あるかしら?」
真実を話す。胸の内までは話すことは出来ないだろうけど。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
今回の結は結構無神経でしたね。だが、修正も難しい。
作者自身がその辺駄目駄目なので。(コミュ障末期)




