微かな違和感 Ⅲ
「普段何してたら、魔弾切り刻めるんですか......」
不満げ、というよりも納得が行かないとでも言うように、頬を引き攣らせながら形ばかりの疑問を守美子に投げかける結。
魔法局からの帰りのバスにて、少女達は先の模擬戦中の事を話していた。
といっても、反省会は訓練室で行ったので世間話的側面が強い。
「魔弾とは呼ばれているけど、実銃の弾丸よりは遅いしねえ。それに、ちょっとズルしてるからね」
比較対象がおかしい。
いや、名称的に比較するのは全くもって自然な流れだが、”何故切れるのか”という質問に対して、銃弾よりは遅いと返されても困る。
「守美子さんって、本物の銃を使う人と戦ったことが......?」
当然こんな反応になる。結は何度目になるか分からないが守美子に対してドン引きした。
無いよね? あったとしたも、どこで? まさか日本では無いよね?
結の頭の中は疑問で埋まり尽くしている。
そもそも実銃に撃たれたことがある人でも、見切れる者など居ない。
そんなものは、漫画や映画の住民だけだ。その中でも、戦闘能力が高い方の。
「そんな経験ないよ? 流石に。動画投稿サイト見ながら、訓練したら弾丸が少なければ出来るようになったのよ。......あ、勿論魔力でズルしてるからねっ」
途中で結がなんとも言えないような顔をしていると気が付いたのか、取ってつけたように魔力の使用を白状した。守美子の人外認定はかろうじて免れた。
「......ズルってどういうことですか?」
結は一応の反応を返す。気にはなったので。その前のアレコレについては、一度棚上げしよう。
何とか話を逸らすことに成功した守美子は、ほっと安堵のため息を漏らす。
バスが幾つか目のバス停で止まったのを皮切りにしたように、彼女は説明を開始した。
「身体に魔力を込めた時に、込めたところの機能が強化されるのは知っているでしょう? だから、腕は勿論の事、目、それと脳に魔力を込めるの。腕は速度がいるからで、目は魔弾とかを捉えるため。でも、大事なのは脳。脳の機能を魔力で上げて、一度で処理できる情報量を増やす必要があるの。寧ろ、いちばん大事かも」
より細かくは、守美子のあげた三ヶ所の他に、脳への酸素等の供給量を増やすために心臓、血液中に多くの酸素を取り込むために肺の2つも強化が必要だが、そこらは魔力が心臓に貯蓄される関係で、魔法少女ともなれば、その機能は常人は疎か、トップアスリートすら容易く凌駕する。
そのため、説明するまでも無いのだ。
そのような戦闘談義(?)をして暫くふと窓の外を見た結はある事に気が付いた。
「......あれ? 守美子さん、お家過ぎてませんか?」
そう、普段は結よりも早く下車する、更に言えば既に最寄りのバス停は過ぎている守美子が結の横に座っている。
これはどういうことだろうと結は守美子に視線を向ける。
「ああ、今日はちょっと用事があってね。そこが街の端っこの方なんだよ」
そう言って、顔を綻ばせる守美子。
結にはそんな彼女がかつて無いほど美しく思えた。それと同時に少し悲しげにも。
結が自宅最寄りのバス停で降りるその時、否、バスが発車してなお彼女の笑みは慈愛に満ちていた。
「久しぶりだな。今から行くよ、お母さん」
微かに口元から漏れ出た言葉はバスのエンジン音に掻き消された。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
ちょっとメタい話だったかも......。




