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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
追憶の母

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微かな違和感 Ⅱ

「守美子さん……?」


 訓練室の先客は、守美子ことグラジオラスだった。

 結の声にも気が付かず、少女は小太刀を振るう。


 描かれた幾多の軌跡。

 一重二重と何重にも重なり、周囲一帯を暴風が包む。

 荒々しい音がガルライディアの耳に届く。

 そこに敵の姿は無いが、まるで戦い合っているかのように錯覚させる程、流れる様に。


 けれど、ガルライディアの目には他の色々が写っていた。


(いつもより固い?……要らない力が入ってるのかな。それにちよっと刀ぶれてる?)


 まだ近接訓練を始めて2ヶ月経っていないガルライディアでも少し見れば分かる程度には、グラジオラスの剣筋(刀筋)はぶれており、また要所に余計な力が掛かり、このままでは普段通りの速度、威力を出せないだろう。


 滝のような汗が少女の頬を滴り落ちる。

 ぽたり、ぽたり、と際限なく。


 彼女の顔に浮かぶは焦燥か。何かを振り切ろうと藻掻くように我武者羅に剣戟を重ねる。


 それが見て取れたはいたものの、何が出来るわけでは無い。

 ガルライディアにもそれが分かっているからこそ、彼女の剣戟が途絶える迄の十数分、ただ見ている事しか出来なかった。


 _______________



「――っはぁ、はあっ……」


 ガルライディアが見始めてから早数十分、実際にはもっと長い間愛刀を振い続けたグラジオラスだが、段々と速度を落としていき、風は吹き止んだ。


「グラジオラスさん、大丈夫ですか?」


「――ガルライディア? いつの間に……」


 訓練室に備え付けられたタオルを持って、グラジオラスに近づいていく。

 グラジオラスの方は声を掛けられるまで、ガルライディアの存在に気が付いていなかったようだ。


「……大丈夫、ちょっと疲れただけだから」


 受け取ったタオルでしっかりと汗を拭いて、明らかにちょっとでは無い程に疲労が滲むその顔を半ば無理矢理笑顔に変える。


 ちなみに、魔法少女の衣装は魔法そのものであるが、魔法自体が布状に展開されている為、しっかりと水を吸う。

 それ即ち、汗や血も吸収するという事。

 更に言えば、変身時に着ていた服の上に重ねる様に魔法を展開する関係上、魔法を貫通して攻撃を食らうと元々着ていた服も破ける。

 だが、変身解除時に魔力で繕う為、衣服に外傷は殆ど残らない。


 人体の傷を治療しないのは、治療魔法の調節は当たり前だが、傷の深さや位置に左右され、服の修繕よりも難易度が高く自動的に使う魔法ではかえって危険な為だ。


 閑話休題。


「邪魔しちゃったか。声掛けてくれて良いからね?」


 荒々しかった呼吸も落ち着きを取り戻し始めた頃、漸くと言っては何だが、グラジオラスは自身がガルライディアの訓練の邪魔になっていたと気が付いたようで、ばつの悪そうに口元を歪める。


「見てるだけでも、色々気付く所はあるから大丈夫だよ?」


 声掛けづらいし……。

 グラジオラスの研ぎ澄まされた聴覚ははっきりと口の中で転がすような呟きをも拾ってくる。

 ついでに()()で、自身の剣筋がぶれていると暗に指摘されている様で、グラジオラスの心に盛大にダメージが入る。


 メンタルダメージから気を逸らすように首を幾度か振る。


「ガルライディア、後で模擬戦付き合ってくれない?」


 気を取り直して、ガルライディアに頼み込む。

 ガルライディアの普段の訓練の様子より、精密射撃訓練として、動き回る的に正確に魔弾を当てる練習をするのだろう。それが終わった後で、戦闘訓練。

 今日も例に漏れず、ガルライディアはそのつもりだったので、二つ返事で承諾。


 頼んだのはグラジオラスだが、実力差的にはガルライディアの方がよっぽど訓練になるのだ。断る理由は無い。


 ガルライディアの心情的には、戦闘時のグラジオラスは相対すると割と怖いので、少し戦う(やる)のは躊躇するが。


 それは兎も角として、今回のガルライディアの戦闘訓練はグラジオラスとの模擬戦となったのだった。



 その後、魔法局の訓練室では、爆発音や硬い物がぶつかり合う音、そして、咆哮とそれに伴う悲鳴が断続的に響いていたのだとか。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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