微かな違和感 Ⅰ
「加集 結さん。この度貴女の、ガルライディアの魔法少女としてのランクがBになりました。おめでとう」
「……え、っと?」
8月の上旬、招集に応じて、魔法局を訪れた結は結の上司に当たる人の部屋にて、そう伝えられた。
大した反応を返せずにいる結に、上司――清水 創美氏は、一度綺麗に纏められた黒髪を払うように頭を振ったのち、説明を追加する。
「先の人型の魔物、魔人の討伐によって、認定されました。その結果、収束の魔法少女 ガルライディアの魔法少女ランクがBに上昇しました」
「……あれ? あの、魔法少女のランクって1人で倒せる魔物のランクと同じなんじゃないんですか? 私1人じゃ勝てませんし」
以前結が受けた説明では、魔法少女のランクは、その魔法少女が単独討伐に成功した魔物のランクと同一になる、といったもの。
けれども、ダイバー相手の単独勝利どころかBランクでさえ、実際に勝利した経験など、結には無い。
そんな旨を創美に伝えると、彼女は納得したような笑みを浮かべた。
先程までは殆ど表情が動かず事務的だったが、今は公私のバランスが私に寄っているようだ。
「ああ、その話ね。最初の頃はそれで合ってるのよ。Cランクまでは倒せたら昇格なんだけどね、Bランクからは他の幾つかの基準の一つでも満たせば良いの」
Bランク認定の為の基準は、単純にBランク単独討伐の他に、
・戦闘面以外で稀有な才を持つ。
・Aランクの魔物討伐に多大な貢献をした。
・『起源魔法』を使用可能。
など、多岐に渡る。
結はこれらの内、二つ目と三つ目の基準を満たしている為、Bランクの認定を受けた。
「初めて知りました……。でも、確かに単独討伐だけが理由だとSランクの魔物なんて2体しか居ないのに、Sランクの魔法少女が沢山いるのはおかしいですもんね」
生死を問わなければだが、Sランク魔法少女達(法的な意味での少女は5人といない)は100人近く存在するのだ。
認定の理由が一つだけで無いのはそこからも明らかだ。
閑話休題。
「ランクが上がると、具体的に何が変わるんですか?
……あ、勿論ランク表記以外ですけど」
結としては魔法少女のランクを気にした事などない為、何が変わるのか多少興味があった。
薄々察してはいるが……。
「具体的にはお給金が上がります! 他は魔法局関係の施設の利用費の割引率が上がったりとかかな」
「……まあ、ですよね」
察しの通り過ぎて、コメントが浮かばない。
もうちょっと何かあって欲しかったようだ。
勿論の事、給料が高いに越した事はないのだが。
「反応薄いわねえ。お金は大事よ?」
口では諭すように言いつつも、結の言いたい事が分かるのだろう。創美は苦笑気味だ。
だが、社会人としては絶対に主張したかったのだろう。その言葉に冗談めかしたような雰囲気は一切無く、真剣一色に染まっている。
「いや、分かってるんですけど、使い道が思い付かなくて。99%位は銀行行きでしたし」
本当はもっと割合は高いが。
結が実際に使用した額は買い込んだ本代と謡と陽子と遊んだ際に服を一着買った程度、凡そ15000円程だ。
よって、結は99.8%位銀行口座に入れた事になる。
「使い切らなきゃいけない訳じゃないんだし、貯めておいた方が良いでしょうね。魔法少女なんて特にいつまで出来るかわからないんだから」
そう言った創美の目が遠い過去を見つめているようで、結の視線は彼女の目元に吸い込まれる様に動かせなかった。
彼女は今の地位に着いて10年は立っているとの事。
一体何人もの魔法少女達を見送ったのだろうか。
結には想像することも出来ない。
するべきではないだろう。
そんなこんなで、話もそこそこに結は部屋を去った。
結は元々、本日は訓練のために魔法局を訪れる予定だったのだ。
流石に毎日は無理だが、3日に一度は魔法少女の訓練用の部屋で家では出来ない魔法の発動などを訓練しに、訪れるようにはしている。
家では、魔力操作や筋トレ、型の確認等しか出来ないので、3日に一度とは言え、不規則に動き回る的相手との射撃訓練は必須と言えた。
変身してから訓練室に入る。(無いと信じたいが)万が一魔法が飛んできたとしても対処できるようにだ。
訓練室には先客がいるらしく、人影が目に入る。
白い着物風の魔法を纏い、白刃を縦横無尽に振るう彼女は――
「守美子さん......?」
守美子、元いグラジオラスだった。
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