彼女の始まり
お待たせしました!
もう何年も昔の話。
ある少女には、とても優しい”母“がいた。
より正確には少女達には。
彼女は沢山の子供達の為に、家事、畑仕事、家の修理など仕事に明け暮れた。
勿論、子供達も家事や畑仕事は手伝っていた。
けれども、限界はあった。
また、彼女の胸にはいつも不安が渦巻いていた。
子供達は将来生きていけるのか。自身はどこまで介入すべきなのか。既に自身の元を去っていった我が子たちは元気なのか。
不安が更なる不安を誘発し続けていた。
いつしか彼女の眠りは浅い状態のままになった。
結果的に彼女への負担は底知れないものだった。
しかし、彼女は折れなかった。
例え何があろうと笑顔を絶やさずに。
彼女の母が守ってくれた家を今度は自身が守る為に。
けれども、少女だけは知っていた。
辛い状況に母が涙していた事を。
いつも自分達を守ってくれるその背はとても強く、同時に弱い事を。
後に母の側も少女が知っていることを認識し、彼女にだけは弱みを見せるようになった。
少女はそれまで以上に母と仲良くなった。
母と少女。
互いに支え合う2人は、例え血の繋がりが無かろうと、家族であった。
弱みを誰かに見せられるようになったからか、母はそれまで以上に強く、美しく、そして何よりも優しくなった。
精神的な余裕が出来たという表現が近いか。
金銭的な余裕は無いけれど、確かに心は満たされた。
元々病弱であった少女が寝込んだある時、母は看病をしながら、少女にあるお願いをした。
「いつか、私が居なくなっちゃった時に、誰も子供達の面倒を見てくれる人が居なかったら、その時は力を貸してあげて」
居なくなっちゃ、嫌だ。
そう縋るように涙目になる少女。
「まだまだ居なくなるつもりは無いわよ。……でも、絶対じゃない」
「本当は貴女にも頼むべきでは、無いんだけどね。でもね、此処は私の、私達のお家だから、出来たら守って欲しいんだ」
自分は身体も心も弱いから、守れない。
そう零す少女に母は続けた。
「それなら、私にも出来ないわよ。まあ、うん。貴女の方が心は強いわよ。子供に心の強さが負けてる私でも守れるから、大丈夫だよ」
そう愛おしげに遠い過去を臨む母の眼を、その時の言葉を少女は今でも覚えている。
だから、彼女亡き今、自分が守らなくては。
愛おしき家族を。笑顔を。
母と暮らしたあのとても小さく、とても温かいあの家を。
「大丈夫だよ、お母さん。私が居るから。大丈夫……」
彼女は後にそう溢したが、それは母にでは無く、自身に言い聞かせているようだった。
お読み頂きありがとうございます。
2章の始まりです。今後も読んでくださると幸いです。
キャラクター一覧の後書きに書いた通り、守美子さんが大暴れします。(寧ろ暴れない章無いかも)




