表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
初めての変身

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/265

始めの一歩

 ダイバーによる街の襲撃から10日程が経過した。


 跡形も無く破壊されたショッピングモールやその周囲一帯は未だ瓦礫の撤去が完了していない。

 当然巻き込まれた周囲の民家は、人が住める状態になく、人々は急遽建設された仮設住宅に身を寄せる事となった。


 彼らの対応に政府は追われているらしい。


 また、街の修復にはアッシュ含む、ぬいぐるみ達ーー何でも通称妖精と呼ばれているとかーーも駆り出されているらしい。


 結にその事を伝えた明曰く、魔法を行使出来る妖精は、普段は街周辺の魔物の感知や魔法少女のスカウトなどをしているが、魔物による街の被害などを修復する事も仕事内容に含まれているらしい。


 結としては、街の修復に妖精が絡んでいる事は初耳だったが、特に何と言った感想は浮かばなかった。


 と言うよりも、その前にとんでもないものを見て意識が飛びかけていただけなのだが。


 そのとんでもないものと言うのは、


「……あの、明さん。この紙、何ですか?」


 何となく分かってはいたが、結はそれを明に聞いた。


「結の今月のお給料の額がかいてあるのよ。お金は口座に入れてあるでしょうね」


 その日は7月の下旬。(一応)魔法局も政府の組織である為、魔法少女も扱いは公務員と大凡変わらない。

 その為、給料が振り込まれまたのだ。


「いや、あの、それは分かるんですけど…………」


 結の目はある一点をじっと見つめていた。用紙を握る手は微かに震え、用紙もまた揺れる。


「一月のお給料が400万円超えるって、どう言う事ですか?!」


 正確な給料は、425万4735円。ちなみに税金は徴収された後でだ。

 単純計算で、年俸5000万を超える。

 はっきり言って、小学生が持ってて良い額ではない。

 例え、その子供がどれだけしっかりしていても、限度というものがある。

 と言うよりも、400万半ばというのは日本の社会人の年収の中央値くらいだ。


 更に言えば、

 税金徴収後なので元々はもっと凄い事に……。


「ああ、結のは2か月分よ。書類とかがゴタゴタしたのか遅れたらしいわね。あと、初めてにしては多いけれど、そこまで驚く額でも無いわ。使い方にだけは気を付けなさい」


 曰く、魔法少女の給料は、一般的にランク毎の基本給+各魔物のランク毎の全体額から魔物の討伐に対する貢献度によって割り振られた金額と、なっている。


 勿論、戦闘以外の適正を持つ魔法局所属の魔法少女達はまた別の基準になる。

 尤も、どれも貢献度で決まるのだが。


 ちなみに、結は活動していない期間があった為、そこの間も戦っていれば、450万は軽く超えていた。


 月々200万円近い収入。とりあえず、日本の大抵の医者は超えただろう。

 少なくとも、魔法少女がいないと魔物の数が減少し難く、インフラすら危うくなるのだから、貰い過ぎでは無いようにも思えるが。


「……使い方って、言われても…………」


 言うまでもなく、これ程の額を手にしたことのない結にはどうすればいいのか分からない。

 服と本位しか欲しい物が浮かんでこないのだった。


(何、なに、どうすれば……。通帳あずかって貰う?

 ……お母さんに話す方がいいの? こんな金額どうしろとっ)


 混乱が極まり、涙目になりつつある。

 貯金しておくという発想が一切出てこない辺り、大分重症だ。結の部屋の貯金箱には中々良い額貯まっているのに。


 ぶっちゃけると、加集家の個人月収は、結(魔物の討伐数、貢献度によるが一体以上単独討伐時)>昌継>結(基本給)>香織となった。


 最終的な手当から見れば分かる事だが、魔法少女の収入は基本給よりも、戦闘等の追加分がメインである。

 一回一回の戦闘で収入は大きく変わるのだ。


 その為、魔法少女の中には単独討伐に固執し過ぎて命を落とす者さえいる。

 幸いにも、

 ガルライディア(ゆい)グラジオラス(すみこ)エレク(なお)セージゲイズ(あかり)の全員がそのようなタイプでは無い為、手柄の争いなども起こらない。


 そんな魔法少女という字面からは想像もしたくない(出来ない)事を聞かされながら、結は帰路に着いたのだった。


 お金の使い道については、両親へのプレゼント以外決まっていない。


 _______________



 わいわいがやがやと、賑やかな小学校の教室。本日は夏休み前の最終日。だとしても、些か騒がしい。

 そこは今、ある生徒にとっては地獄となっていた。


 この動画を見てみろだの、男女問わず大騒ぎとなっている。

 結は馬鹿みたいに多い収入でとりあえず本を買い込み、それを読もうとしているのだが、学校にいる間は読んでも内容がまるで頭に入ってこない。

 その理由というのは、


「仲間の危機に颯爽と登場してーー」


「ーー市民と仲間の為に戦い抜いた」


「いや、うんっ。ガルライディア最高」


 何か話が纏まった風の声が結の耳に届いた。

 ごっ、と中々痛そうな音を立てて、結は机に頭から突っ伏した。羞恥心的に色々とヤバい。


 休日に突然巻き起こったダイバーの襲撃(あの戦い)、それが収束してすぐの月曜日から1週間以上、教室どころか学校中でガルライディアを主として魔法少女達の話題でひっきりなしな状況となっている。


 もっと言えば、街中似たような感じである。

 この時ほど、結に身バレの危険性が伝わった時はないだろう。


 ただそれはそれとして、結としてはお願いだからやめて欲しい。偽りなき本心からそう思う。

 せめて自分のいない所でやって。

 そう言いたいのはやまやまだが、身バレはしたくないので言い出せない。

 結局のところ、受け入れる(あきらめる)しか無いのであった。


 閑話休題。


「あの、結ちゃん、頭大丈夫?」


 机に頭を強打した結を見かねて、謡が心配そうに聞いてくる。


「……うん、多分大丈夫」


 結の心は現状により、ささくれ立っており、謡の言葉は複数の意味に聞こえた。


 物理的には、ちょっと痛いが問題無い。

 ()()()()()、大丈夫。と信じている。

 2つの意味にどうしても聞き取れ、曖昧に答えてしまった。結は純粋に心配してくれる謡に罪悪感を覚えたが、もう耳を塞いでしまいたかった。


(私は、大切な人が死なないでいてくれれば良かったから、()()()()()なんて言われても困るんだよね……)


 見捨てようとは思わないが、優先順位が違い過ぎる。

 正直なところ、結からしてみれば、知りもしない人数百人と、知り合い1人のどちらかを選べと言われれば、どんなに批判を受けようとも、1人を選ぶ。

 批判で精神的にボロボロになるかも知れないが。


 そんな訳で、褒められても……、といった具合だ。

 寧ろ誇張気味に戦闘時のことを話される方が心に()()


「いや、若干腫れてるぞ。保健室行くか?」


 呆れたように提案した陽子。指摘通り、結の額は多少なりとも赤く腫れていた。

 結は鏡など持ち合わせていないが、主張してくる額の痛みからそれが真実であると悟る。


「保健室は良いや。それよりも、今日のお買い物、本当に本屋でいいの?」


 先日世話になった保健室に行くのは、少し恥ずかしい。特に、出血なども見られないので。

 ついでに、基本的に健康な結にとっては、保健室というのは慣れないのだ。


 また、前々から結、謡、陽子の3名で予定していた買い物はショッピングモールが倒壊したことなどから、予定が本屋となった。

 あまり本を読まない陽子にとっては退屈ではないか。そう思って結は聞いてみた。間違っても当日に聞くことではない。

 それに対する陽子の回答は、


「ああ、いいのいいの。元々結が見てられなかったから、謡と計画したもんだし。本屋には漫画もあるしな」


 との事。精神的にも肉体的にもボロボロ状態の結を見かねて、元気づけようと2人で結が早退した日に計画したは良いが、次にあった時にはすっかり元気だったのだ。肩透かしも良いところだろう。

 計画の理由は兎も角、遊びたかったのは、謡、陽子共に同じ。

 そのため、結局買い物は行われることになったのだった。


「とりあえず、終業式が終わってからね? 早く帰れるしね」


 謡の言葉で、周囲が移動し始めていることに気が付いた結たちも揃って、移動を開始した。

 結は普段は眠くなる式中に一切眠気に襲われなかったが、それは絶対の秘密だ。


 _______________



「私と結ちゃんが普段行ってるお店に行くので良いかな?」


 殆ど本屋などには赴かない陽子はあまりにも頼りにならないので、謡の言う通り、最初は本好き2人の行きつけの店に向かうことになった。

 その店はそこそこ大きいところなので、同じ学区内の人は同じところに行くかもしれないが。


 おしゃべりに講じながら、ゆっくりと歩いて向かう。

 何も急ぐ必要は無い。休みは始まったばかりだ。宿題に関しては棚上げとする。


「ーーでさ、あいつがその時なんとも綺麗にーー」


 陽子の笑い話に耳を傾けながら、角を曲がった時、結のポケットが暴れた。

 正確には、ポケットに収められている()()()()が。


「ええ、またあ?」


 毎度のことながら()過ぎるタイミングに、悪態をついてしまう。

 ランクはC。先日のダイバー戦を経験した結には格下に当たる。これだったら、直ぐ行って全力で『貫通(ペネトレート)』を打ち込んでこよう。そうすれば、一緒に買い物できる。


「またか、行ってこいよ」


 陽子は結の様子から察したのか、そう口にする。

 理解が早いことに驚きつつも、結は一言断りを入れて駆け出した。


「いってらっしゃい、()()()()()()()ちゃん」


「うんっ。ーーえ?」


 結は咄嗟に謡を振り返る。今確かに謡はガルライディアと言った。それは即ち結が魔法少女であると知っていると言うのか。

 謡と陽子はイタズラが成功したとでも言うように、にんまりと口元を歪める。


「......い、いつから?」


 何とか絞り出す。何故、いつバレた?


「だいぶ前から......。それよりもーー」


「本屋の近くの公園で待ってるから、終わったら来いよ?」


 笑って送り出す2人。掛けられたその言葉を噛み締めて、彼女は走り出した。


「『変身』!」


 ()が煌めき、少女を包む。

 彼女は、改めて魔法少女としての一歩を踏み出した。

一章はこれで終わりです。

次回、キャラクター紹介などを乗せたら、二章のプロット等の準備期間を頂きます。

楽しみに待っていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ