収束則 Ⅻ
「『散弾』!」
『散弾』を続けて二度打ち払い、弾幕を張る。
魔力弾はダイバーには届かず、距離半ばにて霧散する。
ダイバーはガルライディアに接近する。割り込むグラジオラス。
一瞬の拮抗の後、グラジオラスは弾き飛ばされる。その僅かな時間にガルライディアは魔力のチャージを終えていた。
「『貫通』!!」
またもや収束魔力弾を使用して、先程以上の魔力を込めて放つは、文字通り必殺の一撃。
それをーー
「ーーオォォオオオッ」
『フライクーゲル』に込められた大量の魔力を確認。一瞬ぞっとしたように顔を歪め、一転して別の意味で顔を歪めた。
衰える様子の無い暗緑の魔力を拳、ガントレットに一極集中して全力の正拳突き。
『収束』と『発散』の魔力が鬩ぎ合う。貫こうとする紅と覆い尽くそうとする暗緑。
ピシッ、ギシッと魔弾とガントレットがともに軋みを上げる。
バキンッと硬質の音と共に魔弾が先に崩壊した。
だが、それはガントレットが無事なのではない。
「チッ、やってくれたな」
舌打ちと忌々しげな視線。ただし、それはガルライディアにだけ向けられたものではなかった。
ダイバーの右腕のガントレットは、無惨にもひび割れ、砕け、無事なところなど全体の1割にも満たない。
収束魔力弾をも用いた全力の『貫通』に対する相手の被害としては、少なくはあるが、ダイバーの強力無比な攻撃を受け止めるグラジオラスからしたら、これほどに嬉しい事は早々ないだろう。
先の一撃で決まるのなら、それが良かっただろうが。
「ガルライディア、まだ......行ける?」
いつの間にか、ガルライディアの横にグラジオラスがいた。
「グラジオラスさんこそ、大丈夫なの?」
質問に質問で返すことになったが、グラジオラスの消耗がガルライディアの数倍では済まないのは、言うまでもない。魔力も、精神力も、残り僅か。それどころか、精神は既に限界に差し掛かっている。
「......ちょっと、まずいかな。ごめん、守るっていったのにね」
ちょっと、じゃないだろうとガルライディアは言いたくなったが、ぐっと堪える。
見れば分かるほどにグラジオラスはボロボロだが、その一瞬すら今は欲しいくらいなのだから。
「もう、大丈夫ですよ。たくさん、何回も守ってくれたから。後は、私一人でやるよ」
「そっ、か......、おねがいね」
ガルライディアのその言葉を合図としたかのように、ガクリと膝をつくグラジオラス。
ここからは、少女1人の戦場だ。
まだ、死は怖い。
でも、最初はあった震えはいつの間にか、無くなっていた。
「行くよ」
その言葉は誰に向けたものか。今度はガルライディアから、ダイバーに攻撃を仕掛ける。
魔法少女の圧倒的な身体能力を存分に活かし、ダイバーのもとに進み行く。
それを認識して、ダイバーは目を疑った。
「こいつっ、ーー」
(ーーさっきより速えっ!)
ガルライディアが突然速くなったのだ。それも、格段に。
普通戦闘が進むに連れて、鈍って遅くなっていくはずなのに。
その秘密は、魔力制御にある。
魔法少女が常人は疎か、トップアスリートすら凌ぐ身体能力を持っている理由は、魔法少女としての衣装として纏っている魔法に身体能力強化が含まれているからなのだが、実は他にも理由はある。
突然だが、魔力は大気中に含まれる。その結果、魔物の出現以前と以後では大気圧が大きく異なっている。
普段人間含む魔力を少しでも保有する生物は、その少ない魔力を体表を覆うことでその大気圧に抗っている。
だがそれでも、以前よりも体にかかる圧力は多少増したようだが。
また、魔力は体内にて込められた箇所の能力を向上させる効果がある。
こちらの強化幅は小さく、前述の多少増大した大気圧の影響をほぼ受けなくなるだけだが。
だが、それは飽くまで常人の話だ。
では魔法少女はどうなのかと言うと、実は魔法少女も生身なら常人と然程差はない。
そもそも魔力とは、心臓に蓄積されるもので血流に乗せる形で体内を循環する。
それならば、魔法少女の身体能力は生身でも高いのではないのか。魔力を全て循環させるのなら。
魔法少女は普段、無意識的に必要最低限の魔力のみを循環させる。
その結果、ほんの少しだけ常人よりも強化幅が大きくなるだけに留まる。せいぜい1.05倍位だ。
ちなみに、魔法少女はもれなく圧倒的に強靭な心臓をもつ。
だが、普段セーブしている魔力を意識的に循環させられるのならどうなるのか。
言うまでもなく、能力は跳ね上がる。心臓は多少弱まるが。
ガルライディアは現在、普段よりも循環させる魔力を増やし、ついでに魔力を身体から放出し続けている。
循環が後者の身体能力強化を示し、放出が身体を覆う魔力を増やすことに繋がる。
ダイバーも魔力を放出している。見た目的には両者同じなのだが、やっていることは遥かに異なる。
しかし、ガルライディアも普段無意識的に行っていることを意識的に行おうとしている為、まだ不完全なのだ。集中力も多大に消費するのだから、メリットだけでは無いのだが、今はやらなければダイバーに追いすがることなど到底不可能。
「オオッ」
ダイバーの攻撃が迫る。
「『散弾』!」
攻撃を普段よりも多く魔力を込めた魔法の反動をも用いて、回避する。
だが、
「ハハハッ、面白えな! 俺相手にここまでやれんのは、お前で二人目だ! ガルライディアとか言ったか、お前。そこに転がっている雑魚どものとこじゃなくて、こっちに来ないか?」
敵はただただ愉快そうに、笑うのみ。
否、勧誘までしてきた。
「ーーえ?」
ダイバーの言葉に気を取られ、ガルライディアは止まってしまった。
ダイバーが攻撃の手を止めていたのが救いか。
「だから、俺らの仲間にならねえかって言ってんだ」
一切揺るがなかったわけでは無かった。少なくとも、戦える内は自分の居場所があるのだから。
特にダイバーは戦えさえすれば、良さそうだ。
少なくとも、魔法少女になる前なら可能性はあっただろう。
けれど、
「ふふっ、」
つい笑みが漏れ出た。
「ううん。あなた達の、私の大切な人たちを悪く言うような人の仲間にはならないよ。絶対に」
今は、そんなことにはならない。例え、揺らいだとしても、願いを肯定してくれる人たちが沢山いる限り、彼女は戦い続ける。
その覚悟は出来ている。
震えが無くなったのは、交感神経とかの影響だろうけど、それを言うのは野暮というものです。
(特大ブーメラン)




