収束則 Ⅺ
死ぬのは、怖い。直面した時何よりも怖い。あの自身の存在が無くなることへの恐怖、忌避感は二度と忘れられないだろう。
けれども、後になって思うと綾生がいなくなってしまった時の方が余程怖かったように結は感じた。
当時は気絶するまで睡眠さえ取れず、食事に手を付けず、常に友人の行きそうな場所を考えていた。香織に物理的に止められていなければ夜の街を駆けずり回っていたことだろう。
最も、支えてくれる人が綾生の時よりも断然多い事も恐怖の軽減に繋がったのでは無いかとも、結は思っているが。
それは兎も角として、結は自身の死よりも周囲の死を恐る。少女は大切な人を失う事に耐えられない。
あの喪失感をまた味わったりしたら、どうなるのか。
考える事さえ、結には出来ない。
出来たとしても、終わりが見えるだけだろう。
だからこそ、誰も失わない為に、彼女は戦場に立つ。
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「収束の魔法少女 ガルライディア! 私は誰も失わない!!」
誓いを胸に。
相棒を構える。右の銃を敵に緩く向けて、左は顎の下辺りに斜めに。体を開いて、右脚を一歩下げる。
射撃は勿論、近距離戦闘も考慮に入れてある。
グラジオラスの協力の元、ガルライディアはガンカタ、即ち拳銃を用いた近接戦も多少なりとも磨いてきた。
グラジオラスから短い得物での防御の初歩を学び、ひたすらに実戦を繰り返す。
そうして、身につけつつある構え。
荒削りも良い所だが、無いよりは随分マシだろう。
「ガルライディア......、ああ、そういやあいつが言ってたな。もう1人いるって」
ダイバーに協力者、もしくは共犯者がいることが分かった。ガルライディアはそれに気が付いても今は気にしている余裕など一切ない。
ダイバーの全身、一挙手一投足に全霊を傾ける。
互いに出方を伺っている、ダイバーには先の戦闘に比べ積極性が伺えない、時にセージゲイズからの『念話』がガルライディアに届く。
『ガルライディア、よく聞いて。あいつの魔力はーー』
突然頭に響いた声に声を挙げなかったことを自画自賛したくなる。が、今は堪える。
セージゲイズからダイバーの魔力特性『発散』の詳細を聞く。
(『収束』と真逆ってことかな、ちょっと違うかもしれないけど)
まあ、いいや。そう思考に区切りをつける。
再度意識のすべてを敵へと向ける。
どれ位そうして睨み合っていただろうか。数十秒のようにも、数分のようにも感じられた。
先にしびれを切らしたのは、ダイバー。どうやらこの男、本当に待つ事が苦手らしい。
彼の踏み込みで、より正確には魔力放出と脚力によって、地面が爆ぜる。
「ッ『爆裂』!」
突き進んでくるダイバーの足元に放つ。またも地が爆ぜ、爆風が頬を叩く。
豪、ともう一度風が吹き荒れた。
ガルライディアの目には爆風を突き破る暗緑の風と同色の影が映る。
「ーーオオラッ」
拳が振り向けれる。『フライクーゲル』の一方を半ば強引に叩きつけ、上にかちあげる。
もう一方を腹部に押し当てる。ゼロ距離射撃。これなら魔力の減衰など考慮せずにすむ。
「『貫通』!!」
限界までストックされた収束魔力弾の一つを開放した、全力の一撃。
「危ねえなっと!」
寸前のところでダイバーが己の腹部に添えられた『フライクーゲル』を、先のお返しとでも言うように蹴り上げ、逸らす。
咄嗟のことだったために、ガルライディアは引き金を引いてしまった。
ーー勿体ないっ。
ガルライディアはそんな事を考えている場合ではなかった。
ダイバーは蹴り上げた後、バク転のように一回転する。両足が地に着いたときには既に、彼は次策を用意していた。
引き絞られる右腕。体勢の整っていないガルライディアを容赦なく狙う。
「この子は、やらせないっ!」
寸前、グラジオラスが割り込む。両刀を交差させ、一撃を受け止める。
ズザザッ、と靴底が鳴る。それでも何とか踏みとどまる。
「グラジオラスさんっ、大丈夫?!」
ガルライディアから驚愕と心配の声があがる。
「......ええ、大丈夫」
同時にガルライディアの頭の中にグラジオラスの声が木霊する。
『でも、私じゃあいつに攻撃を通すことがほぼ出来ないわ。だから、攻撃はお願い』
「それに、結、貴方が来てくれたことが嬉しいわ。守るから安心なさい」
続けるように、彼女は言う。敵を騙すためにあえて本音を用いる。
「うんっ」
それを聞いて、ガルライディアが打って出る。追随するグラジオラス。




