収束則 Ⅹ
「アアアッ!」
右手の魔法具を叩きつける。相手の魔力が薄くなっている箇所を狙った一撃。
「ーーハッ」
嘲りとともに容易に払い落とされ、逆に反撃をもらう。
エレクの『起源魔法』を凌がれた後、グラジオラスの負担を減らすために、セージゲイズは前衛に躍り出た。
だが、結果は火を見るより明らか。相手の防御の薄いところ、それも魔力の乱れによるものであるためダイバーの意識しない箇所への攻撃の尽くをいなし、防がれ、反撃を打ち込まれる始末。
そもそもの問題なのだが、
(こいつ、分かってはいたけど相性が悪いわねっ……)
魔力の乱れ、体表を覆う魔力に様々な要因でほんの僅かに空いた空白、それは当然ながら場所が変わる。それも大した前兆もない時すらある。
そこを狙うのは至難の業、けれども彼女はそれに特化した才を持つ。
『魔を垣間見る』により魔力の乱れは見えている。多少の変化にも磨き上げた技が対応してくれる。
ただ、眼前の敵は別なのだ。彼の魔力特性『発散』は一箇所に留めることが非常に困難である為か、魔力の乱れの位置が変わり易いのだ。
加えて、セージゲイズよりも数段高い近接能力。
グラジオラスと連携を取ろうにも『断崖絶壁毀す白亜の加護』は途切れ、それでもなおた戦い続けた彼女は既に満身創痍。
エレクの近接能力など皆無に等しい為、結果的にセージゲイズ一人で戦うしかないのだ。
けれども、そんな状態でそう長く持ち堪えられる訳も無く、
「いい加減、落ちろ!!」
カウンターとして、回し蹴りをモロに食らう。
衝撃でセージゲイズの視界は白んだ。
「ーーゲホッ、ガフ」
咳き込んだ拍子に口の中に血の味が広がり、足下に飛び散った。肋骨3本の骨折。
最早、立ち上がる事もままならず、両手を付かなければ身体を支える事さえ出来なくなった。
「終わりか。……まあまあ愉しかったぜ?」
少女たちに戦うことは最早出来ず、
対して、敵は幾つもの傷があるののの、未だ健在。
とどめとして、ダイバーの右腕が掲げられた。
ぽたり、ぽたりと血が滴るにつれて、纏う魔力が増大していく。腕を振りかぶり、頂上で一度止める。
周囲を見渡し、満足げな笑みを浮かべる。
まさしく万事急須。けれども、止められる者がただ1人。
「させないよっ!!」
撃鉄が鳴る。以前よりも鮮やかな赤色の魔力がダイバーを弾き飛ばす。
ざざっ、と靴擦れの音が響いた直後、
今度は対照的にトンッ、と軽い音が鳴った。
「ごめん、遅くなっちゃった」
3人を見たのち、一言謝る。ワンピースの裾が揺れる。
「お前、名前は?」
忌々しげにダイバーは彼女を睨む。
ーー名前、
聞かれて少し考えてしまった。
魔法少女と同じように名乗って良いのか、
一度逃げ出してしまった自分に、その資格はあるのか、
いや、と彼女はかぶりを振る。
一度逃げたからこそ、名乗らなければ。
共に戦う覚悟は、出来たのだから。
もう二度と失わない為に戦う覚悟は。
だからこそ、彼女は口上をこう綴る。
「収束の魔法少女 ガルライディア! 私は誰も失わない!!」
両手の重みを敵へと向けて、少女は周りを赤で包んだ。
一章終わってないのに、60話超えると言う……
次章からは1話1話もっと長くします。




