収束則 Ⅰ
「ただいま……」
結は、学校から家に帰り、自室にて鞄を放るように下ろす。
「……はあ」
勝手に溜息が漏れ出る。
最近授業に身が入らない。原因は彼女にもわかっている。
その原因をどうにかしなければいけないのだが。
(もう魔法少女なんてやめたいはずなのに……)
この胸のもやもやとした感覚は何なのだろう。
いや、彼女も薄々気づいている。
が、どうすべきなのか分からないでいた。
とりあえず、結は目下の悩みを棚上げして、宿題をしようと床に落ちた(落とした)鞄を拾い上げ、中身を出した。
「あ、これ……」
その時に目に付いたのは教科書では無かった。
結の手から若干はみ出す直方体、一面がスクリーンで覆われた携帯端末。マギホンであった。
こんなもの、捨ててしまえと思う。
これがあるから、アラートを、恐怖の象徴を指し示す不快な音を聞く羽目になる。
これがあるから、魔法少女との繋がりがある。
「――ッ?!」
掴んだその時、マギホンが電子音と共に微かに震える。
思わず見てしまった。
そこには、
<守美子
私たちは大丈夫だから、ゆっくり考えて。結がしたい事、楽しい事、そして嫌な事も。私は貴方がどちらを選んでもずっと味方だから>
守美子からのメッセージが映されていた。
どちらが何を表すかなどは愚問。
メッセージが途端にぼやける。
守美子が味方でいると言ってくれた事が何よりも嬉しかった。
魔法少女を辞める。その事が結には怖かったのだ。
色んな知らない人から何を言われるのか。
両親が、守美子が、鳴音が、明が、周囲の人たちが離れてしまわないか。
だからこそ、守美子が魔法少女を辞めても、居なくならないと分かって、結の心を揺さぶった。
他の人がどうあれ、繋がりが断たれない。
結にとって、これ以上ない程大切な事なのだ。
「捨てられないなあ……」
辞めたいのに、捨て去りたいのに、繋がりを感じさせるものは捨てがたい。
結は困ったように笑みを浮かべた。
__________
同時刻、彼女はいた。
「明日にでも、やりましょうかねえ」
にたりと、笑みを浮かべた少女が1人。
彼女は街を覆う結界の頂上の更に上、そこにいた。
彼女自身が浮遊しているわけではない。
彼女は、鳥を模した魔物の上に立っている。
「ああ、何処にしよう?ショッピングモール? 学校? 公園? 駅前? 迷っちゃう」
笑みを深めて、1つに絞る。
「どんな悲鳴を聞かせてくれるのかしら。どんな顔をするのかしら」
くつくつと喉を鳴らして、彼女は街の上空から去って行った。
「楽しませてね、魔法少女さん?」
そう風に乗せて。