無と紫紺
すみません、遅れました。
「食らいなさい」
装飾華美な本を片手に、少女はもう一方の腕を振り下ろした。
透明に程近い眼鏡を掛けたその目は、眼下の敵を貫くように。
「奔れ」
身の丈を超える程の杖を両手に、敵を睨むもう1人の少女。
黒衣に身を包み、三角帽に抑えられた金糸を揺らす。
敵ーー街に急に接近してきた魔物を相手取るは、セージゲイズとエレクトロキュート・イグジステント。
共同で魔物の討伐に当たっている。
飛来した無色の純粋魔力塊が魔物の魔力の防御に穴を開け、空を奔る紫電が空いた防御の穴に叩き込まれる。
セージゲイズが必要最低限の魔力のみで開けた防御の穴はすぐに閉じてしまったが、彼女はエレクの雷撃による隙に、次弾を用意し終えていた。
「『弾け舞う小火』」
指の先程の大きさの火が魔物に突き刺さる。凝縮された魔火は体躯を覆う魔力をたやすく押しのけ、体内に入り込む。
刹那ーー
「ガアアァッ!!」
魔物の絶叫が耳朶を打つ。
穴という穴から火の粉が吹き出した。
凝縮した火を着弾後、爆発的に開放して、敵を内側から焼き殺す魔法『弾け舞う小火』。
獣は火に巻かれ、息絶えたのだった。
__________
「明姉」
「どうしたの?鳴音」
変身を解き、2人揃って帰路に着く。
そのため、エレクの口調も普段どおりであった。
「大丈夫だと思う......?」
誰がとは言わない。鳴音の思考を最も理解している明相手には言葉は少なくとも、全て伝わる。
そもそも、今回の場合だと守美子にも伝わるが。
「どうでしょうね......。何にせよ、私達のやることは変わらないわ、魔法少女としての」
場合によっては冷たく聞こえるが、明の真意は鳴音には伝わった。
以心伝心。この2人を形容することに関して、これほど適した言葉も中々無い。
明も鳴音も結の事情は守美子からではあるが、聞いていた。
もう、戦えないかもしれない。少なくともしばらくは休養が必須であると。
「これは、あの子自身がけりをつけるべきことで、他人は手伝うことは出来ても最後は1人で決めなければならないの」
「うん......。そう、だよね」
話している内に、空も空気も黒く染まっていってしまった。
けれど、彼女らは願った。
少女が納得でき、自分たちの元へ帰ってくることを。
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