赫
気付いたら50話超えると言う。
「盗み聞きですか、香織さん?」
守美子は、階段を降りてすぐのリビングでコーヒーを飲んでいるらしい香織にそう声を掛けた。
「バレてた?」
おどけてみせる香織。
「寧ろ分かる様になさったのでしょう」
守美子からしてみれば、香織が寝室の前から去る際の足音などがわざとらしかった。今のおどける様子も。
わざとやっているのなら、香織に演技の才能は皆無のようだ。
「あら、ごめんなさい。私ったらお客様に飲み物すら出さないで。座っていて下さいな」
強引に話を逸らす香織。
その真意を悟り、守美子は示された椅子に腰掛けた。
「コーヒーと紅茶だったら、どっちが良いかしら?」
台所から香織が問いかけて来る。
「でしたら、コーヒーをお願いします」
そうして、出されたコーヒーを一口飲み、
「結の様子についてどうお思いですか?」
おそらく、香織が1番気にしている事を切り出した。
「酷く不安定になっている様ね。戦える自分が守らなきゃって」
「その様ですね。それと、結の根幹とでも言うのでしょうか。魔法少女として戦う理由が、当初より少しずれてしまっている様にも感じました」
「あの子は、結は、大切な人達を無くしたく無いから魔法少女になったと私には言っていました」
そう伝えた時の香織の表情は、守美子にはどの様な感情によるものなのか判断出来なかった。
「そう、やっぱりそうよね。結は自分1人でやらなきゃいけないとでも、思っているんでしょね」
貴方の言葉で気が付けば良いのだけど。
そう言った香織は、昔を懐かしむ様なそんな様子だった。
「本当に……。私達の事をなんだと思っているのかしら」
守美子の呟き、香織に聞かせる気の一切ない言葉はしっかりと、香織の耳には届いていた。
「多分、失いたくない人じゃないかしら。だから、無意識下では貴方が戦う事を考慮していない」
「あら、嬉しい限りですね」
世辞の様にもとれるが、守美子の本心である。
コーヒーを飲み干して、守美子は帰る、元い、登校しようとする。
「小岩さん、結を無理矢理戦わせるのもだけど、貴方達も無理しない様にね」
「はい、朝早くから失礼しました」
「何度も言う様だけど、怪我のない様にね。あんまり無茶な事をしようものなら――」
香織が拳を持ち上げる。
「お仕置き、しちゃうわよ?」
その瞬間、
「――ッ?!」
守美子は赫を感じ取った。あまりに暴力的でありながら、馴染み深いその力を。
(香織さん、貴方はそうなのですね)
彼女は、額を伝う冷や汗を拭いつつ、学校へと向かって行った。
今回の香織さんのやつは、だいぶ先まで温める事になります。




