死の感覚 Ⅴ
ギリギリだが、間に合った。
守美子―グラジオラスの心中、状況を表す言葉として、これ程適したものは無い。
周囲を確認して、
「『白縛鎖』」
即時魔狼を魔力で形成した鎖で拘束。
魔力特性『堅固』は、魔力自体が硬い性質を持つため、捕縛などにも適している。
魔狼が動けない事を確認し、意識のないガルライディアの近くにしゃがみ込む。
そして、
「治って……」
治療魔法を出来得る限り、素早く施す。
傷口がゆっくりとしかし着実に塞がっていき、出血が止まる。
けれど、それ以上は後回し。
先に対処すべき魔狼がある。
グラジオラスは、静かに立ち上がり魔狼に向き直る。
魔狼が地面から生えている白鎖を引きちぎろうと、肢体に力と魔力を込めている事を示すように、鎖はギチギチと軋みを上げる。
だが、それだけだ。
グラジオラスは右の小太刀に魔力を込めて、魔狼の眼球に最速で突き込む。
魔狼は咄嗟に瞼を閉じたが、小太刀は易々と突き破り、深く突き刺さる。
けれど、まだ脳には達していない。
「――ふぅっ!」
だからここは強引に。
突き刺さっている小太刀の柄頭に左の小太刀のこれまた柄頭を、力と極々個人的な私怨を込めて叩きつける。
叩かれた小太刀は深く侵入すると同時に衝撃によって、魔狼の体内で暴れる。
魔狼は、脳を破壊され、地に倒れた。
それから、
グラジオラスはガルライディアを抱えて、魔法局へと、正確には魔法局に設けられている魔法少女専用の医務室へと直行して、応急処置のみであった治療を再開。
専門医と共に時間を掛けて、変身の解けた結の傷を癒やし、輸血をして、最後に異常が無いかを検査して、後は彼女が目覚めるだけになった。
だけなのだが、
「……起きませんね」
幾ら待てども、結は起きない。
なので、守美子は香織へと電話をして(番号は初対面だった日に教わった)、迎えに来てもらった。
「失礼しますっ。――小岩さん、結はどうですか?」
連絡を入れて数分、香織が医務室へとやって来た。
前回に比べて、かなり早い到着だ。
「傷は治しましたので、大丈夫かと。……しかし、彼女が気絶してから約1時間半、未だに目を覚ましません。医師曰く、脳などに異常は無いそうですが」
答えながら、守美子は全く別の事を考えていた。
(香織は魔法局に直接関係の無い人物。でも、普段は部外者に着くはずの職員が1人もいない。どうして……?)
香織は守美子、結のいる医務室まで1人で来た。
守美子は疑問に思ったが、それよりも優先すべきことがある。
「一通りの検査は終わっているとのことなので、結を連れて帰って頂きさいても、構いません」
「ありがとうございます。……ごめんね、結」
守美子にお礼を言って、香織は結を軽々と抱き抱えると医務室を去って行った。
読んで頂きありがとうございます。
香織さん、何やら訳ありのご様子。
諸用につき、次回更新は、2/26になります。




