死の感覚 Ⅳ
弛緩した雰囲気で皆が昼食を食べている昼休みの教室。
少年少女らの賑やかな会話を断つように、1つの携帯電話から警報が鳴り、数秒遅れて学校全体へアラートが届いた。
それらが知らせる事はただ1つ。
魔物の街中での出現である。
警報を鳴らした携帯電話、すなわちマギホンは、街の周囲の一定範囲に魔物が侵入した場合に警報を鳴らす。
アラートの方は魔物が街中に侵入或いは出現した際のみ発動する。ただし、街全域で鳴るわけではない。
ちなみにマギホンの方がアラートよりも先に反応するのは電気的なものよりも魔力的なものの方が伝達速度が速いためだ。
そんな警報を聞き取ったただ1人の少女―守美子は、すぐさまマギホンを確認した。
そして、息が止まる。
危険度を確認して、結のみが自由に動ける事を思い返して、
(結が戦っても勝てないっ……)
それは本人も分かってはいるだろう。
けれど彼女は、行ってしまうのだろう。
守美子の脳裏に浮かぶは、地に倒れる結の姿。
そのイメージに守美子の意識は占領され、
肩に受けた衝撃で現実に引き戻された。
「守美子、大丈夫?立てる?」
守美子の肩を軽く叩いたのは友人の清水 凪沙。守美子の良き理解者である。
「……ええ……」
口では肯定しても、態度が隠せていない。
「ごめん、凪沙。私、行かなきゃ」
周囲が騒がしい現在でも伝わりやすいよう言葉を区切りながらはっきりと言う。
普通なら緊急時に真っ先に避難しないというのは、些かどころでは無いほど危険な所業。
言っても止められるのがオチだ。
しかしながら、凪沙はそうはしない。
「……はぁ」
溜息を1つ。幾つもある言いたい事を流すように。
「行ってきなさい。先生たちはなんとか誤魔化しておくけど、怪我して来たら庇いきれないからね」
守美子の背を押す凪沙。
守美子は彼女の本心を悟り、口角が上がるのを自覚した。
「ありがとう。……行ってきます」
背を向けて、人混みを掻き分けて走る。
「頑張って来なさいよ、グラジオラス」
投げ掛けられた言葉は、誰の耳にも入らなかった。
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