死の感覚 Ⅲ
頬に飛んだものが何なのか、ガルライディアは暫く分からなかった。
仄かに温かい暗赤色の液体。それが頬を伝い、一滴地に落ちた時、漸くそれが血だと理解した。
「……え、あ……」
血と理解しようとも、思考はまるで追い付かない。
そして、それは無防備に突っ立っている事を示す。
女子の身体を未曾有の衝撃が襲う。
「――――ッッ、ァ!!」
声にならぬ絶叫。或いは悲鳴。
少女の身体は魔狼の爪撃により、軽々しく吹き飛ばされる。先程とは比べものにならない程に血が飛び散った。
あまりの衝撃と身体を奔る激痛に意識が消し飛びかけ、
瞬間、再び奔る。
鈍く荒々しい音が周囲に響き渡る。
何度も、何度も、
魔狼は少女を弄ぶが如く、幾度となく鋭爪を叩き付ける。
その度に赤が飛び散り、視界は白く染まる。
「……ぅ、ぁぁ…………」
もはや、声も、それこそ悲鳴さえもあげられない。
地は赤々と塗られて、其処に倒れ伏す少女。
魔狼が止めとばかりに前脚を振り上げる。
まだ遊びが残っているのか、振り上げてから停止した。
ガルライディアがぼやけた視界にそれを収めていたと、彼女は様々な事を思い返していた。
(……あぁ、走馬灯、だっけ……?)
もはや、真っ当な思考などはなく、危機的状況下でさえ、彼女はそんな事を考える。
その心情は、早くこの苦痛から解放されたい。
ただそれだけ。
(もう、いいや。私もそっちに行くよ……)
少女の心は折り砕かれ、瞳に浮かぶは諦念か。
かつての友、否、かつていた友の姿が閉じかけの瞼に浮かぶ。
そんな少女の内心を知ってか知らずか、魔狼はとうとう爪で彼女を引き裂いた。
「――させないっ!!」
そのはずだった。
ガルライディアを蹂躙し、その命を刈り取るはずだった鋭爪は上空からの一撃に強引に逸らされ、何も成すことはなかった。
ガルライディアの瞳には純白が映っていた。
読んで頂きありがとうございます。
最近pv数がこれまでの比でない程のペースで増えており、作者は内心小躍りしております。(近所迷惑になるので実際には動きませんが)
本当にありがとうございます。




