死の感覚 Ⅰ
「いやあ、早帰りって良いよなっ」
陽子の普段より幾分か弾んだ声音は、大半の生徒の意見を代弁している。
夏休みが近づき、先生方が通知表をつける為に、生徒達の帰りが早まるそんな(生徒からすれば)夢のような日である。
「楽だけど、遊ぶばっかりじゃなくて夏休みの宿題減らそうよ」
既に出された夏休みの宿題を思い浮かべながら、謡はやんわりと釘を刺す。
「そうだね。今度一緒にやろうよ」
謡派の結。
3人の帰路をゆったりとした時間が流れ行く。
それを壊すものが1つ。
突然、警報が耳を劈くように鳴り響いた。
「―ッ!」
しかし、当然ながら反応するのは結1人。
結としては、2人に反応される方が困るのだが。
(守美子さん達は、まだ学校。……私しか)
今日帰りが早いのは結のみ。ならば、
「ごめん、2人とも。忘れ物しちゃった。先帰ってて」
言い訳の常套句、忘れ物。
「またかよ……」
陽子からの若干の呆れを含んだツッコミが小さいながらも結の鼓膜を打つ。
3人の中では1番忘れ物が多いように思われがちの陽子だが、寧ろ1番忘れ物が少ないのだ。
本当に信じ難いことに。
閑話休題、簡単に別れの挨拶をして結は走り出した。
路地裏に入るや否や、
「『変身』!」
赤に身を包み、跳び上がった。
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結の様子を見ていたものは、地上には2人。
言わずもがな、陽子と詩である。結の様子に違和感を覚えつけていたのだ。
「魔法少女、か。……言えよ、協力ぐらいしてやんのに」
陽子は、結が伝えてくれなかったことに憤りを覚えつつもお門違いだと自分に言い聞かせて、抑え込む。
「ホントに言ってくれれば良いのにねぇ。……写真撮れるし」
陽子に同意しつつも欲望を隠せぬ謡。
その様子を見て、陽子は結に合掌した。
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家屋の屋根の上を走りながら、ガルライディアはマギホンにて魔物の現在位置と脅威度を確認する。
「街中!……で、Bかぁ」
ガルライディアとしては正直厳しいと言わざるを得ない。というより、ここまで状況が悪いことも中々無いだろう。
ガルライディアの現在のランクは、Dランク。則ち、単独討伐は、Dランクまでしか経験していない。
グラジオラス、エレク、セージゲイズの3名は、それぞれA、A、Bランク。
ガルライディア以外ならば、問題は無かった。
加えて、今回は街中での戦闘。周囲に常に気を配りながら格上を倒さねばならない。
けれど、
「私しか居ないんだから」
そう意識せずに呟き、ガルライディアは蹴り足に力をより込めて、速度を上げた。
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そして、上空からガルライディアが屋根の上を駆ける様子を見る者が1人。
「あら、あの子だったのね」
ガルライディアを眺め、その顔を愉快げに歪める。
「ふふ、どう壊れるかしらね?」
その言葉に応えるものは何も無い。