朱殷 Ⅲ
少女が1人、医務室のベッドに寝かされている。
彼女の顔は、少々青白く、ベッドにぐったりと身体を預けている。
傍には、付き添いの少女。寝かされている少女よりも、年上であることが、随所から伺える。
言うまでもなく変身を解いた結と守美子である。
「大丈夫?」
暫く様子を見ていた守美子が結に声を掛けた。
「……うん……」
結は無理に笑ってみせる。
守美子は思わず深い溜め息を吐いていた。
(大丈夫じゃないのなら、そう言いなさいよ……)
ただ、心の内を明かすことはしない。出来ない。
自身もよく言われているから。
人を諌めることなど出来るわけがない。
「とりあえず、香織には連絡済みだから、10分掛からないうちに迎えにきてくれるはずよ」
それまでは、寝てなさい。そう言外に伝える。
結もそれには頷き、目を閉じた。
しかし、彼女の意識が途絶えることはない。
瞼を閉じれば、噴き出し地に流れ出た鮮血が見たくもないのに、浮かび上がる。
そして、思い知らされる。
(私は、生き物を殺したんだ……)
もちろん、結も肉や魚を食べるのだから、間接的には普段から殺しているとも言える。
そして、そんなことは結も分かっている。
けれど感じてしまう。命の重さを。自身の罪を。
彼女のエゴがその身を蝕む。
いつか、罪の意識に押し潰されそうで、そうなった自分を想像して、結は少しだけ怖くなった。
(守美子さん達は、どうしてるのかな……)
割り切っているのか、今の結と同様に思い悩んでいるのか。
どうすればいいのか、分からなくなってきた。
「殺した分だけ、生きなさい。生かせなさい」
深い思考の海に潜っていた結の耳にも、その言葉、守美子の言葉はすんなりと入ってきた。
半ば呆然として、結は守美子に目を向ける。
「魔法少女になりたての頃にね、今の結と同じようになったの。その時にある人に今の言葉を貰ったのよ」
そのように語る守美子の顔は優しげで、守美子にとってある人がどれほど大切なのかは嫌でも伝わってくるようだった。
「その人は、私に自分が殺したものの分まで生きろ。守るべき人を殺した分だけ守れ。そう言いたかったんだと思う」
まあ、口下手なんだけどね。そう微笑を浮かべる。
「殺した分だけ生きる、守る……」
結は守美子の言葉を反芻する。
極小さな呟きは、しかし、守美子には聞こえていた。
「すぐにそうは思えないでしょうけど、忘れないでいてくれると嬉しいかな」
守美子から向けられた笑みは、とても温かく、昔を懐かしむ様にその瞳は遠かった。
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