零れ落ちる
シャーロットは接近されると決まって多量の魔力を用いて、攻撃してくる。
これは初戦からずっとやっている行動。
グラジオラスからすれば戦闘慣れが一切感じられないし自身の視界も潰す愚策、ではあるが、シャーロット程の魔力出力だとそれでも十分に脅威だ。
恐らくだが、一切の加工無し、ただの魔力放出でもシャーロットの最高出力が直撃したらAランク魔法少女の半数は耐えられない。
だが、この場にいるのはシャーロットとは3度目の戦いとなる防御特化の魔法少女だ。
「『断崖絶壁毀す白亜の加護』!」
一瞬で良い。
大出力を耐えて、一歩踏み込む。
それだけで殺せる。
全力で魔力を注ぎ範囲もギリギリまで狭めた防壁。
グラジオラスが根底の記憶。
これはシャーロットではかなりの工夫が無ければ破れない。
魔力放出分のリソースも『起源魔法』に注いだ。
だが、彼我の距離は5mと無い。
一刀一足、即ちグラジオラスの間合いだ。
右の小太刀で首を掻っ切る。
そのつもりだった。
(――は……?)
首に刃が入り込む直前、シャーロットが足を滑らせた。
彼女の足元には、当人から零れた血が乾ききらずにあった。
咄嗟に躱そうとしたシャーロットはそれに足を取られ、九死に一生を得た。
だが、ただ躱せたなんてことグラジオラスの前では許されない。
左の小太刀で苦し紛れに斬撃を見舞う。
当たり所は先に考慮した点。
シャーロットの左脇腹には然程深くはないが、5cm程の切り傷が出来た。
これで胸元と合わせて、失血死までかなり近づいた。
とは言え、この一合の間に殺すつもりでいたのに、失敗した。
『断崖絶壁毀す白亜の加護』まで切って、この程度の成果では到底仲間たちの助けに駆け付けられない。
けれど、今回で失敗したならシャーロット側からの警戒は以前の比ではない。
元々かつての二度の戦いでも接近して斬るしかやっていないのだ。
警戒がより強固になるのなら、流石にそれを崩すのは難しい。
(さて……どうしたものか…………。このまま止血する間も与えずに戦闘を続ければいずれシャーロットは死ぬ。だが、それには流石に時間が掛かりすぎるし、こっちの魔力も相当に減る。多少の怪我は承知で強引にでも殺すか)
幸い、グラジオラスは傷の治療が可能だ。
長期戦で無駄に魔力と時間を浪費するよりもコラテラルダメージとして後から治す方が早いと判断。
そんな思考とは別に脇腹への斬撃で更に体勢を崩したシャーロットを右脚でリフティングの要領で真上へ蹴り上げる。
シャーロットは咄嗟に魔力を全身から全力放出。
誰も寄せ付けぬ暴風の壁と成す。
「シ――ッ」
魔装の状態を保った右の小太刀がシャーロットに迫る。
しかし、暴風の無力化は出来るがそれは小太刀の範囲だけだ。
身体自体は後ろへ押され、小太刀が捉えたのは薄皮一枚程度。
(これだ……!)
だが、そこにグラジオラスは光明を得た。
ろくでもなく、それでいて手っ取り早い手段。
それを実行すべく、彼女は距離の空いたシャーロットへと再度突撃。
小太刀への魔力の供給を止め、その分のリソースを目と脳に移行。
強引に処理能力を上げて、シャーロットの弾幕の隙間を掻い潜る。
とは言え、完全に回避し切れている訳ではない。
グラジオラスの身体には大小様々な擦過傷が出来上がる。
だが、そんなものは些事だ。
目と脳に回していた魔力を小太刀に戻す。
彼我の距離は8m。
シャーロットの表情が歪んだ。
先程の光景が脳裏を掠めたのだろう。
それでも、シャーロットに迎撃しない選択肢はない。
彼女の運動性能ではグラジオラスとの追いかけっこに勝ち目は無いのだから。
黒の魔力が波濤として、彼女らの視界に影を落とさせる。
グラジオラスは頭上に『廻る白亜』を展開。
魔力は最小。
僅かに踏み込む時間が欲しく、また魔力は別の魔法に回す。
「――――ッ゛!!」
魔力がろくに籠っていない『廻る白亜』ではシャーロットの攻撃は勿論防げない。
しかし、それでもグラジオラスは痛みに鈍らない全力の踏み込みの為にそれを用意し、全身を削がれながらもシャーロットの眼前へと躍り出た。
今度は想定していた通りにバックジャンプで後退しようとするシャーロット、その足元に血は殆ど無い。
「『白縛鎖』」
飛び切り強く、飛び切り硬く。されど、長さは最小規模で。
単体での行使史上最高強度の鎖を以て、己とシャーロットを強引に繋ぐ。
それと同時に加速。
魔力の放出さえ伴わないただの踏み込み。
けれど、それでもシャーロットの意識を捉えるには十分だった。
「アア゛ァアッッ!!」
雄叫びにも似た気合の声音。
絞り出すかのようなそれにつられるように出力は限界を叩いた。
それでも、『白縛鎖』は砕けない。
シャーロットの視界には白に染まる宿敵の姿。
再度『断崖絶壁毀す白亜の加護』を行使、『白縛鎖』の強度の限界を突破させ無理やり繋げた状態を維持。
更にグラジオラスは暴風を前に1m程後方に障壁を設ける。
それも出せる限界の強度で。
シャーロットを中心として吹き荒れた暴風。
そして余裕の無い長さの鎖で繋がれた2人。
また吹っ飛ばされるグラジオラスの背後の障壁。
また、障壁との接触に合わせて、左腕で抱え込むようにグラジオラスは自身の鎖を引っ張った。
結果、暴風の勢い以上の速度で自ら敵の懐へ突っ込むこととなったシャーロット。
そこを待ち構えるは、グラジオラスが右の小太刀。
白に染まったそれを前にシャーロットも覚悟を決めた。
後に残るは2つの血の跡。
亡骸と赤く染まる死に装束の主。
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