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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
真なる欲望

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汗を流せ

 加集 結の背を変な汗が伝った。

 冷や汗とも違う、だがたしかに不快なそれの原因は、彼女の付近にある。


「…………どう?」

「まだ序盤なので、なんとも……」

「そう………………」


 森の異常を感知出来て光合成も出来る変人、深緑の魔法少女 アルベロ――本名如月 オリビアからのじっとりとした視線、それは梅雨時のじめじめとした空気を想起させた。


 イギリス出身の母と日本人の父を持つ彼女は、これでも非常にワクワクしていた。

 睨むようなジト目、猫背によって近づく顔。

 プレッシャーを巻き散らしているようにしか見えないが、これでもワクワクしていた。

 これでも。


 事の発端は久々にあった友人との雑談だった。

 自身が所属している魔法局支部に飾り気がない。後輩達も気にしてはいないが、いつか息が詰まってしまうのではないか、と。


 暫くした後にその支部を訪ねる用事が出来た彼女は、張り切った。

 時間を潰せて、ある程度目につく位の色味、大きさのものが良い。

 だから、自分のおすすめの漫画を大量に布教することにした。


 これならば未成年の子達でも多少は読むのではないか、と。

 人を選ばず、おすすめだと言い切れるものだけに絞ったために内容に問題は無いだろう。


 魔法少女として戦い続けるのは、精神に非常に悪影響だ。

 命のやり取りに心が削れる。

 年の離れた後輩達に少しでも、厳しい現実から目を離す暇をあげたかった。


 建前もほどほどに、張り切って布教をした。

 したは良い。


 ただ、誰も読んだ形跡が無かった。


 オリビアの気が早すぎるだけではあるが、それでも悲しかった。

 それが伝わったのだろう。


 たまたま同じタイミングで訓練に来た結は休憩中に一冊の漫画を手に取った。

 その様子を、オリビアは近くで見ている。

 それが現状までの全てだった。



 端的に言うならば、30歳成人女性が今後の戦いでトップクラスに重い役割を帯びている小学生に気を遣わせた。それだけである。

 反省しろ。



 _________________________




「結構おもしろかった…………」


 居心地は悪かったが、内容は良かった。

 プレッシャーはかなり凄かったが、最終的に感想は特に求められなかった。


 多分、読んでいる様子を見て満足したのだろう。

 表情の変化は乏しかったが、なんか少々元気そうだった。


 それに少し試してみたいことも出来た。

 これは漫画の内容もそうだが、過去の戦いの経験も踏まえての話だ。


 実験台は当然アルベロ。


 使う魔力はあくまで訓練用。

 だが、戦い方は本気で。

 それが彼女らの間で結んだ約束。


 アルベロとしては手加減すべきか僅かに迷ったが、魔法少女歴一年にも満たずにAランクにまで上り詰めた少女を前にそんなことをしていては訓練にもならないと考えなおす。

 15年以上戦ってきたアルベロをして、ガルライディアはそれほどの存在になりつつある。


 ガルライディアとしては手加減無しでないと意味が無いのだ。

 おあつらえ向きにもヒュアツィンテに近いリーチの相手だ。

 試すのなら全力で。


 合図は無く、最速で収束した魔力を弾けさせる。

 ガルライディアの軽い身体は一瞬で数mを飛び越えて、アルベロの間合いギリギリへ。


 半歩でも踏み込めばそこは戦斧の領域。

 そこを敢えて、踏み越える。

 そうでないと、ガルライディアの打撃は届かない。


 寸前、ガルライディアに見せていない速度でアルベロの斧が迫る。


「『衝撃(インパクト)』」


 冷静に相手の足元に衝撃波を生じさせ、体勢を崩させる。

 だが、アルベロはその程度では揺るがない。

 斧を振るう際に、衣装(・・)から伸ばした木の根がアンカーとなって姿勢を保持する。


 斧は止まらない。

 アルベロは姿勢の保持は出来たが、斧の軌道は完全にはそのままとはいかなかった。

 ギリギリで小さな身体を潜り込ませて斧を回避し、低威力の通常の魔弾を連射。


 僅かにでも怯ませようとした攻撃は無意味。

 アルベロの防御は揺るがない。


「魔法少女は偶に魔法の影響を受けやすい衣装の持ち主がいる。私はその一人。この衣装は植物で出来ている。全力でおいで」

「――はい!」


 あぁ、ここまで仮想敵としてちょうど良い者は今までいなかった。

 強化プログラムを経て習熟した技術の全てをぶつけるように、ガルライディアは再度突貫した。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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