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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
真なる欲望

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多種多様をかき集め

 アスタークレセントとの訓練は午前中で終了した。

 あれは感覚の取っ掛かりを得るためのものであり、そう長く続けるものでも続けられるものでもない。

 何度胃の中身をぶちまけたかは分からないし、何も食べる気にならないが、少しだけでも摂取しておかないと午後まで身が保たない。


 変身を解いた結はプログラム用に貸し切られた宿泊施設のバイキングスペースを彷徨っていた。

 未だ気分の悪さは無くならず、強い匂いだけでも空っぽの胃がせり上がってくるような錯覚を覚えるため、その足取りさえもふらついている。


(売店でゼリー飲料とスポーツドリンク買うだけにしよう…………。早く出ないと、吐く)


 最後の方は胃酸さえ出なかったが、このままだと先程までと同じ状況に陥るのは目に見えている。

 ここの食事はどれも美味しいので普段は楽しめるのに、今日ばかりは無理そうだった。


「――結。大丈夫……では無さそうね」

「…………守美子、さん?」


 背後から声がかかった。

 声の主は守美子。

 振り向いた結の顔色を確認して、ゆるく手を取った。


「一旦外に出るか部屋に戻るかしましょうか。美勇先食べててください」

「いや、この状況でそれは無いですって。飲み物とか買ってくんで、先部屋行っててくださいよ」


 今プログラムでは同じ街の魔法少女3~4人で同室になるように手配されており、結は守美子、美勇との3人部屋であった。

 守美子に横抱きにされる形で運ばれた結はその後眠りにつき、午後の訓練は遅れて参加することとなった。



 _________________________




 14時26分、多少顔色も体調もマシになった結、ガルライディアは午前中と同じ訓練室を訪れた。

 なんでもアスタークレセントとは違う指導役らしいが、かなりの腕を持つ魔法少女が呼ばれたらしい。


「ガルライディアと申します。この度は遅れてしまい、申し訳ありません!」

「お気になさらず。…………最近の小学生って礼儀正し――――」


 挨拶をした相手が膝から崩れ落ちた。

 ガルライディアも思わず息を詰まらせた。ただでさえ疲労困憊の少女に更なる衝撃が襲い掛かった瞬間であった。

 眩暈さえ感じる。今日はもう駄目かもしれない。


「――ん゛んっ、失礼。『絶唱』の魔法少女 シンフォニアです。本日は講師役を賜っております。さっきのは、こう、自分の年齢を考えさせられただけなのであまり気にしないでください」


 シンフォニアはアスタークレセントの相方であり、10年程前にSランクの魔物が彼女らの街に出現した際に共に戦った魔法少女の1人である。

 本人もSランクであり、現在の遠距離系魔法少女最強と言われれば、シンフォニア以外に名が挙がる方が珍しい程の実力者でもある。


 余談ではあるが単純火力で言えばエレクの方が上だったりする。

 ただシンフォニアの真価はそこではないので、ネット上でもさして論争にはなりえない。


 更に余談ではあるがアスタークレセントとシンフォニアは高校時代のクラスメイトであり、年齢は同じ26歳。


 今日シンフォニアは時の流れに殴られたのだ。

 アスタークレセントは微塵も気にしていないので本人は自分だけが気にしていること自体も気にしているが、一旦置いておこう。


 現役魔法少女の2大トップがそれぞれガルライディアの指導にあたるということは、一重に上層部からのガルライディアへの期待故だ。

 前例がない魔法少女の強化、調べない手は無かった。


 幸いにも日本は魔法少女も一般人も犠牲者は少ない方ではあるが、決して0ではない。

 それを減らせる可能性があるのならやらない手は無いのだ。


「午前中にクレセントに地獄の魔力制御をさせられたと思いますが、どうでしたか?」

「今もちょっと体調悪いです」

「尾を引きますよね、あれ…………」


 かつて自分から頼んで体験したあの地獄を思い出し、少女に同情を向けつつ魔法を起動する。

 治療の前に行う検査用の魔法でさっとガルライディアを調べて、続いて制吐作用の魔法を発動。


 ガルライディアの体調をせめて訓練に耐えられる程度にまでもっていく。


「あ、ありがとうございます。それで具体的には私は何をすれば」

「その前にこちらの魔力特性『奉唱』のざっくりとした説明を」


 シンフォニアの魔力特性『奉唱』は言葉を用いなければ最高出力を出せない代わりに、あらゆる魔法を使いこなせる器用万能に等しい力だ。

 再現できないのは性質が魔力に由来する力だけ。

 彼女の手に掛かればどのような状況にも対応できる。


「――と、そんな出来ることの幅が大きい特性ですが、原理的には魔力を魔法毎に適した性質に一時的に偏らせているんです。例えば、火を出すときには火に関係する特性の人の魔力に近づくんです。まぁ特化の人には負けますがね」


 当人の出力が高いが為に万能に至っているが、これで出力が平均的だったら器用貧乏になっていたかもしれない。

 良くも悪くもシンフォニアだからこそ大成できたと言える。


「それで、ですね。今から色々な魔力をばら撒くので、性質を保持したまま吸収できるか試してみましょう。ちなみにですが、出来なかった場合は我々他人が踏み込める領域ではなくなるので、ガルライディアさん自身がご自分の心と向きあってもらうしかなくなります。では頑張っていきましょう」


 魔力の吸収、譲渡は1人から1人に動かすのが効率的なのだ。

 複数人の魔力を1人に渡そうにも人数が増える度に魔力ごとの反発が上昇してしまう。

 そうなると吸収が不可能どころか、最悪本人の魔力ごと体外に放出されてしまう。


 アスタークレセントの魔力は反発はすれども、体外に出ることも無い。

 それが悪心(おしん)に繋がるのだが、今は置いておく。

 

 アスタークレセントとの訓練でアスタークレセントから魔力をガルライディアに流し込むことで、他者の魔力が消化されずに体内に残る感覚は分かった。

 ならば次は反発の少なく性質を変化させられるシンフォニア1人で試す。


 その為、シンフォニア1人による再現でさえ成果が出なければ外野が出来ることは無くなってしまうのだ。



 結果は不可。

 力の覚醒、制御は少女1人の肩に重石となってのしかかった。

お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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