イレギュラー
プログラム4日目、ガルライディアは事前に伝えられていた予定があるため、遠距離物理組が使うところとは別の訓練室へと向かっていた。
本来プログラム4日目は振り分けられた組以外とも訓練が行える比較的自由な日ではあるのだが、ガルライディアには例外的にそんなものはない。
これは、先の『魔人同盟』との戦いの際にガルライディアが見せた力、以降は発現できていないその力の習得、制御を目標としたものだ。
他人の魔力を自分のものとして扱うなんて、前代未聞。
30年ほどしかない魔法についての歴史とは言え、世界単位で見ても初の異常事態。
通常の魔法少女が出来るのは、他人の魔力を自分のものに変換して扱うというレベル。
持続はしないし効率は悪いが、応急処置的に他者へ魔力を渡すのは出来るのだ。
だが、他者の魔力を他者の魔力の性質をそのままに操るなんて不可能だ。
不可能だった。
だが、可能にした存在がいるのなら、以降のノウハウとしても戦力としても調べない手は無いのだ。
プログラムの開始時刻15分前に訓練室に着いたガルライディア。
今回は躊躇うことなく扉を開ける。
「おはようございますっ。本日はよろしくお願いします!」
気合十分。
あの力さえ十全に扱えれば、ヒュアツィンテ、綾生とだって対等以上に戦えるし、殺さずに制圧だって夢じゃない。
ガルライディアのやる気を引き上げるには十分以上の理由だった。
「あ、おはようございます。お久しぶりですね」
扉の先にいたのは白銀。
黒のマントと銀髪が揺れる。
名をアスタークレセント。
現代最強、『断絶』の魔法少女だ。
かつてガルライディアは新人魔法少女が集められた場でアスタークレセントとはほんの少しだけ会話をした。
だが、その程度だ。
では今回関りが薄いアスタークレセントがガルライディアに教える役目を帯びているのは何故かと言えば、単純にアスタークレセント含む極少数しか習得の糸口になり得る者が存在しないからだ。
アスタークレセントはガルライディアとの挨拶を終えると。さっそくとばかりに、ホワイトボードを引っ張ってきてざっくり状況の整理を始める。
「――まず、この間ガルライディアさんは大気中に散らばった他者の魔力をかき集めて、性質をそのままに行使できた。これは正しいですね?」
「はい。…………でも、できたのはその1回だけでその後いろいろ試しましたけど、成功はしてません」
セージゲイズとファルフジウムの協力の元、何度も試しては見たが成果は無し。
1度限りの力なのか、そう思いそうにもなるがガルライディアの願いと『収束』の力を考えるとそれはありえないだろう。
それはガルライディアの力の本質であり、寧ろ今までの魔力の収束、発射こそが副産物とする方が近いのだ。
出来ない訳がない。
「こういう場を設けたのは良いんですけど、正直こちらはガルライディアさんのような状況に陥ったことが無いので……出来ることからやっていきましょう」
「はい。具体的にはどうすれば?」
ガルライディアのそれは前例が無いので、当然現代最強でも覚えはない。
では、まずどうするか?
これも割と単純である。
「魔力制御をします」
「…………ほぇ」
26歳の魔法少女の笑顔への返答は気の抜けた返事だった。
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「………………あの、凄く気持ち悪いです」
「らしいですね。まぁ、耐えてください」
ガルライディアの回路内にアスタークレセントの魔力を注ぎ込み、その状態での魔力制御を行う。
字面は単純明快だが、言うは易く行うは難し。
これが非常に困難であり、そしてかなりの吐き気も催す。
「私の魔力は他者の魔力と強く反発します。だからこそ魔力由来の物を断ち切ることが得意なのですが…………、それは置いておいて」
朝食を控えめにしておいて良かったと本気で思っている少女に、最強は朗々と語る。
「その反発が強いので、他者に魔力を与えても消化出来ないのです。なので、他者の魔力の性質を保ったままの状態で魔力を使う感覚を覚えられるかと」
「は、はぃ」
「力の発現の仕方に関しては手伝えませんが、感覚さえ掴めていれば取っ掛かりを掴めたり、力に振り回されにくくなるのでは?とそんな感じなので頑張ってくだ――」
「………………ゔ」
紅の魔力に照らされた少女の顔は青かった。
これ以降彼女らがどうなったかの詳細はここでは記載しない。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
強酸マーライオン。
小ネタとしてアスタークレセントは魔力の性質の関係で『共同魔法』は絶対に使えません。
魔力との相性が絶望的に悪い魔力という矛盾した力なので。




