収束の意とは
ストックの重要性を身を以て体験しました。
「集めると収める、どちらもしゅうそくと読むけれど何が違うか、ガルライディアは知ってる?」
訓練の休憩時間、ガルライディアが割り振られた遠距離物理組の中での最年長、集束の魔法少女 ギャザリング・ダートがふと問いかけた。
先程まで魔力の収束の効率化に共に励んでいた先達に目を向けつつ、ガルライディアは取り敢えずペットボトルを一度傾けた。
「私も詳しく聞いた訳では無いんですけど、確か集める方は魔力の拡散は苦手ですよね?」
「そうそう。矢をあてたあとに魔力を炸裂させたり、とかがやりにくいから兎に角貫通力重視にしていたりする感じね。そっちのは違うの?」
「はい。圧縮やらが得意なだけで特別何か苦手な要素があったりはしないんですよ」
魔法少女のシステム上、何かしらの方向性に特化してその逆を苦手とするのが殆どだ。
ガルライディアの周りで言うのなら、グラジオラスとセージゲイズが一応その例に当てはまる。
グラジオラスは攻撃魔法、セージゲイズは水・氷系の魔法を不得手としている。
ファルフジウムは純粋に魔力を魔法の形にするのが下手であるが、特性の問題で魔力の細やかな分配が苦手なので、彼女も例に含めても良いだろう。
エレクとアンドロメダは例外中の例外たちであり、両者己の魔力の性質と密度が高すぎるあまり、特定の魔法しかろくに扱えず、あろうことか他者の魔力さえ捻じ伏せるとんでもない存在だ。
はっきり言って話にならない。
では、ガルライディアはどうか。
彼女の『収束』は魔力の収束が得意ではあるが、拡散も可能どころか、なんの抵抗さえ起こり得ない。
常識に照らせば意味が分からない状況である。
「過去の『収束』の持ち主のことを調べてみたら、該当人物は1人。その人は魔力よりも物理的な物を集めるのが得意で、魔力も集めた物も拡散出来なかったとか」
「……は? 魔力特性は個人間多少の差はあれど根本は同じ筈。そこまでの差はあり得ないでしょう…………!」
「ですね、その筈です。なんでなのか分からなくて、魔力、魔法の解析が得意な先輩主導で調べてもらったんですよ」
今年1月はセージゲイズや普段は魔導具研究などをしている魔法局支部の職員達総動員で調べ回っていた。
何故ガルライディアが魔法局に所属してから期間が開いたのかは単純で、本人が過去の『収束』の使い手の情報を見つけるまでに時間がかかったからだ。
単に各々がそういうものとして捉えて深く掘り下げようとしなかったのもあるが。
更には魔法少女の特性には、魔法少女本人のパーソナリティが詰まっている為、そう軽々しく踏み込む領域でないのも拍車をかけた。
「で、ですね、魔法少女は初めて変身する時に魔力の変性が起こるって言うじゃないですか?」
「まぁ。第一世代の人達ですらそうだし」
「私、それが2回起こったらしいんですよね。1回目は普通に変身アイテムによるもので、その次が『収束』によるものだろうっていうのが、調べてくれた人たちが出した推測です」
収束と言う単語は多くの意味を含む。
一般的には物事に収まりがつくことや、光線・流線が一点に集まることを指しており、数学的にはある数に限りなく近づくことを言う単語だ。
では、魔法的な『収束』の意味とは何か?
その答えだけは、妖精アッシュによってガルライディアに齎されていた。
「妖精曰く、魔力特性『収束』とは願望に沿った力なんだとか」
「要するに所有者の願いによって性質が変化するってこと?」
「多分そうですね。………………あとは後悔とかにも影響されてそうですけど」
最後にぽつりと漏らしたのは何故なのか。
別にギャザリング・ダートに言う必要性は無い。
ただ言葉にしておきたかった。
した方が楽だった。
己が手を離れた存在がいたからこそ、弾丸。
『一条乖離した紅の慟哭』なのだろうから。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
結の魔力特性である『収束』は、願望に早く正確に到達するための魔力、力であるという話でした。
魔力特性で唯一所有者ごとに性質が異なる異常な力。
特殊な理由で再現性が極めて低い例を除けば、最も異常であり最も魔法少女のシステムに親和性のある力です。
ちなみに再現性の低い例は、バーニング・ボルテージとアンチクロックワイズとアスタークレセントとエレク。
アンドロメダさんは実は上記面々に比べれば再現性高いという事実が一番怖いですね。
魔力特性が『潰滅』で、回路が出力特化かつ強靭なだけなので、それぞれの要素で前例がない訳ではないんです。回路の性能はより上が結構な数いますし。




