一時の終結
火雷――バーニングボルテージの制御もへったくれもない力の放出。
だが、その力は救世の英雄達の中で最強だった存在のものだ。
この街の現戦力で無傷で対処できるのはエレクの『悉皆還る赫灼たる霹靂』のみ。
バーニングボルテージの攻撃から始まり、残り3体からの攻撃も始まった。
絶染――インフィニートストラーガの周囲からこちらも制御がロクにされてない魔法が殺到した。
火、水、風、土、氷、雷など様々な力の濁流。
絶在――スカルデマイズの気配が完全に絶たれる。魔力も熱も空気の揺らぎも光の反射も全てから逃れる。
絶壊――レイジモルダーは身の丈程の大剣に灰色の魔力を纏わせる。どろりとした流れの魔力が大剣を揺らし、不協和音を奏でる。
アンチクロックワイズはラウムの対処に手いっぱいだ。
ガルライディアはひとまずインフィニートストラーガの魔法を魔弾の連射で撃ち落としていく。
だが『循環魔弾』も併用しても、まだ手が足りない。
そして、ただでさえ周囲に向ける意識のリソースのないガルライディアの背から回り込むスカルデマイズ。
いざ接近となったタイミングで、魔力塊で殴り飛ばされる。
「……大層な見た目の割にそこらの魔物の方が戦いが上手いわね。流石に無理があるってことね」
間一髪ガルライディアの命を救ったのは、拘束した『就褥』クラッシュを魔法局に預けてきたセージゲイズ。
杜撰 (セージにしてみれば)な隠形を簡単に見抜いて、スカルデマイズを吹っ飛ばした先に指鉄砲を向ける。
「『連装魔力弾・巡回』」
圧縮した魔力弾を6発放ち、スカルデマイズの周囲を縦横無尽に駆ける。
攻撃でなく錯乱、無力化を主目的とした魔法だ。
主に仇なす対象をまずは殺そうと、レイジモルダーは大剣を持っているとは思えない速度でアンチクロックワイズに迫る。
だが、その刃がアンチクロックワイズを裂くことは無かった。
それどころか振り切ることさえできずにいた。
レイジモルダーの大剣の柄に手を添えて、純粋な腕力で抑え込むクリムゾン・アンドロメダ。
深紅が灰を押し返し、ついでに手を握りこむことで強引に動きを止める。
「――師匠まで、道具として使うかッ、ラウム…………!!」
怒りが魔力を猛らせる。
クリムゾン・アンドロメダとレイジモルダーをすっぽりと覆う濃密な深紅の魔力がレイジモルダーの話にならない程度の魔法行使を許すわけががない。
『ガルライディア! ラウムをっ』
『!!――はいっ!』
突然ガルライディアに届く念話。
声音からグラジオラスと判断し、インフィニートストラーガの魔法を抑える手を止めて、収束魔力弾を用意、魔力を自身の現状の限界まで収束する。
大きく広がる『優しき背中は皆を包む』の防壁。
インフィニートストラーガの魔法群を短時間ながら完全に封殺する。
「『一条乖離した紅の慟哭』ッ!!」
ラウムとアンチクロックワイズの魔法戦の隙間を縫うように放たれた紅の閃光。
ガルライディアの魔法を抑え込むためにリソースの一部を向けたラウムだったが、そのリソースもアンチクロックワイズの手で停止させられる。
しかし、それが狙いだった。
密かに用意していた魔法を同時に起動。
アンチクロックワイズが停止させるよりもラウムの魔法の方が早い。
だが、魔弾の方が速い。
「――ヅ、ア゛」
ラウムの左脇腹が抉り消える。
激痛に神経を焼かれながらも魔法は乱さない。
予めマーキングしていた物体と自身とを同時に転移させる魔法にて彼女らは去っていった。
一旦、本当に一旦だろうが、街に平和は訪れた。
緊張が解かれ、皆が脱力する中、ガルライディアの手から『フライクーゲル』が零れ落ちる。
立ち尽くしたまま動けなかった。
確認が怖い。
胸中はそれだけだった。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
英雄の4/5は刃物ぶん回してたという衝撃の事実。
バーニングボルテージ……打刀
アンチクロックワイズ……長さに差のある長剣二振り
スカルデマイズ……カットラス
レイジモルダー……両刃の大剣
インフィニートストラーガ……錫杖
どうしてこうなった。




